小麦粉のアミロース低減に有効な変異型のWxタンパク質Wx-A1i
要約
アミロース合成にかかわる小麦の新たな変異型Wx-A1iタンパク質により、澱粉のアミロース含量はおよそ7%まで低下する。その結果、澱粉の膨潤度や糊化液の透明度が大きくなり、ラピッドビスコアナライザーによる澱粉の糊化特性値である最高粘度は高まり、最終粘度は低下する。
- キーワード:小麦、澱粉、低アミロース、Wxタンパク質
- 担当:作物開発・利用・小麦品種開発・利用
- 代表連絡先:電話 029-838-8868
- 研究所名:作物研究所・麦研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
小麦粉の主成分は澱粉であり、アミロペクチンとアミロースより成る。澱粉のアミロース含量は小麦粉の特性を左右し、加工適性や製品の食感に関わる。一方、アミロースは澱粉合成酵素の一種であるWxタンパク質によって合成され、この酵素には変異型が知られている。
パン小麦(AABBDDゲノム)の近縁種であるデュラム小麦(AABB)の一系統KU9259 (京都大学が保存)において、Wx-A1タンパク質の減少を見出し、その後、これは対立遺伝子Wx-A1iによると推定した。そこで、KU9259とモチ小麦を交配し、遺伝子Wx-A1iがコードする変異型Wxタンパク質(Wx-A1iタンパク質)をパン小麦へ導入して、変異型Wxタンパク質のみを保有する小麦実験系統「Wx-A1i」を選抜し、アミロース含量や澱粉の特性に対してどのような影響があるかを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 標準としたWx-A1aタンパク質のみを保有する小麦系統「Wx-A1a」のアミロース含量の平均が21.5%であるのに対し、選抜系統「Wx-A1i」は7.3%であり、遺伝子Wx-A1iによりアミロースはかなり減少する(図1)。アガロース電気泳動による分析においても、選抜系統のアミロースに減少が認められる(図2)。澱粉・ヨウ素複合体の青価と極大吸収波長は「Wx-A1a」に比べて減少しており(表1)、アミロース含量の低下を示している。しかし、種子の切断面をヨード液(1% KI - 0.1% I2)で染色しても、「Wx-A1a」と同様に「Wx-A1i」は黒紫色で、両者を識別できない。
- 「Wx-A1a」に比べ、選抜系統「Wx-A1i」の澱粉は膨潤度や糊化液の透明度が大きく、糊化処理7日後(4°C保存)の透明度の低下程度が小さい。さらに、アミラーゼによる澱粉の分解程度が大きい(表1)。
- ラピッドビスコアナライザー(RVA)による澱粉の糊化特性値のうち、最高粘度とセットバック(最高粘度-最終粘度)は「Wx-A1a」に比べて増加し、最終粘度、糊化開始温度、最高粘度到達時間は減少する(表1)。
成果の活用面・留意点
- 変異型澱粉合成酵素Wx-A1iタンパク質は新たな低アミロース性小麦の遺伝資源として活用できる。
- 選抜した小麦は実験系統であり、草丈などの栽培特性は改良されていない。
具体的データ



(山守誠)
その他
- 中課題名:気候区分に対応した用途別高品質・安定多収小麦品種の育成
- 中課題番号:112d0
- 予算区分:交付金、委託プロ(水田底力)、食生活研究会
- 研究期間:2009~2011年度
- 研究担当者:山守誠、山本和貴
- 発表論文等:Yamamori M. and Yamamoto K. (2011) J. Cereal Sci. 54:229-235