晩生型開花期遺伝子の導入により大豆品種の栽培適地を南に拡大できる

要約

DNAマーカーと連続戻し交雑により開花期遺伝子座を晩生型に置換した準同質遺伝子系統により、栽培適地を拡大できる。「エンレイ」晩生化系統では、栽培適地より南で栽培しても、元品種と比較して生産物特性はほぼ同等で、収量性が大幅に向上する。

  • キーワード:大豆、早晩性、準同質遺伝子系統、DNAマーカー、エンレイ
  • 担当:作物開発・利用・大豆品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8503
  • 研究所名:作物研究所・畑作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

大豆品種の栽培において、緯度地域毎に最適な早晩性程度があるために、幅広い緯度地域に適応する品種を開発することは困難である。このため地域ごとに異なる品種を育成しなければならず、国産大豆の大ロット化の妨げとなってきた。そこで、近年開発が進んだ開花期遺伝子関連のDNAマーカーを用いた選抜と戻し交雑を組み合わせて開花期遺伝子型を改変することで、早晩性の異なる準同質遺伝子系統群を開発し、栽培適地を拡大する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 全ゲノム領域を対象としたDNAマーカー選抜と戻し交雑により、目的領域以外はほぼ「エンレイ」の遺伝子型に固定されている系統(「作系74号」;E2領域をサチユタカから導入したBC3系統、「作系78号」;E3領域をフクユタカから導入したBC4系統)は、「エンレイ」の栽培適地よりも低緯度に位置する試験地、もしくは晩播等による短日条件下の栽培環境では、「エンレイ」よりも高い収量性を示す(図1)。特に「作系74号」は、成熟期が「サチユタカ」とぼぼ同じ時期であり、多収品種である「サチユタカ」と同程度の収量性を示す(図1)。
  • 百粒重およびタンパク質含有率については、両晩生化系統は北陸地方における「エンレイ」と同程度、もしくはやや高い値を示し(図2A、図2B)、豆腐破断応力について、元品種と晩生化系統間に有意な差異は認められない(図3)。
  • 以上のように、開花期遺伝子座E2およびE3の遺伝子型を晩生型に置換した準同質遺伝子系統を利用することで、元品種と同等の生産物特性を維持した栽培適地の拡大ができる。

成果の活用面・留意点

  • 晩生化系統を、元品種の栽培適地周辺地域で栽培する場合は、草姿が過剰に大型となり倒伏し減収することがある。
  • 一般に短日条件が強くなるに従い生育量が抑制されるので、栽培地域に適した品種・系統および栽培条件の選定に留意する。

具体的データ

図1 晩成化系統と標準品種の収量性図3 エンレイと晩成化系統の豆腐破断能力
図2 エンレイと晩成化系統の百粒重および蚕白含有率
(山田哲也)

その他

  • 中課題名:気候区分に対応した安定多収・良品質大豆品種の育成と品質制御技術の開発
  • 中課題番号:112f0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開、気候変動)
  • 研究期間:2007~2010年度
  • 研究担当者:山田哲也、羽鹿牧太、山田直弘、平田香里、岡部昭典、大木信彦、加賀秋人(生物研)、石本政男(生物研)
  • 発表論文等:T. Yamada et al. (2012) Breed. sci. 61(5):653-660