パンの膨らみが向上する玄米粉の作製法および製パン特性

要約

12時間以上の吸水処理と気流式粉砕処理によって、損傷デンプン含量が低く、粒度の細かい玄米粉を調製することができる。この玄米粉で作製されたパンは、膨らみおよび食味が良く、機能性成分を多く含み栄養学的にも優れている。

  • キーワード:玄米粉パン、損傷デンプン、機能性成分、吸水処理、気流式粉砕
  • 担当:作物開発・利用・水稲品種開発・利用
  • 代表連絡先:029-838-8951
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域(米品質研究チーム)
  • 分類:普及成果情報(2010)

背景・ねらい

米の消費量は減少の一途をたどっており、需要増加に結びつく用途開発が強く求められている。食料自給率向上を目指した米粉利用(特に米粉パン)において、高い栄養価とコスト削減の観点から、玄米粉の利用が望まれている。玄米には、食物繊維やγ—オリザノール、γ—アミノ酪酸 (GABA) 等の機能性成分が存在することが知られている。しかし玄米粉の場合、製粉機への粉残りやパンの膨らみが十分に得られないという問題点がある。そこで、玄米粉の製粉方法を検討することで、膨らみの良い玄米粉パンを作製する。

成果の内容・特徴

  • 玄米(コシヒカリ)を、室温(25°C)で玄米全体を十分に浸漬させ、12時間ごとに水を置換する。この吸水時間を調整した玄米を、気流式粉砕機により製粉する簡易な手段によって、損傷デンプン含量が低く粒度の細かい、且つパンの膨らみが良い玄米粉が調製できる。損傷デンプン含量は、吸水2時間では10%近いが、吸水時間の経過とともに低下し12時間以降ほぼ一定となる。また、同玄米粉を用いて作製したパン(グルテン20%添加)の比容積は、吸水時間12時間まで増大した後一定に推移し、損傷デンプン含量に対応した変化が見られる(図1、2)。
  • 食味試験の結果、玄米粉パン(25°C、24時間吸水による玄米粉)は白米粉パンに比べて同等あるいはそれ以上の味・食感であると評価される。特に、玄米特有の「甘み」のある味と「しっとり」とした食感が良いと評価される(図3)。また同玄米粉を用いた玄米粉パン(玄米粉 30% + 小麦粉70%)の試食アンケートの結果、平成23年度農林水産祭「実りのフェスティバル」にて68%(回答数 221名)の方が、「アグリビジネス創出フェア2011」にて75%(回答数 206名)の方が、「美味しい・とても美味しい」と評価する。
  • 玄米粉パン(25°C、24時間吸水による玄米粉)の成分組成の解析結果から、水分・タンパク質・エネルギー等の基礎成分は白米粉パンと同程度であるが、玄米特有の機能性成分が高含量で存在することが明らかである。例えば、γ—オリザノールが白米粉パンの16倍、食物繊維が同3倍など、米粉パンの高付加価値化を可能にする(表1)。
  • 色素米や巨大胚米のような特色ある玄米や多収穫米でも、同様に良く膨らむ玄米粉パンを作ることが出来る。
  • 本技術によって、製粉機への粉残りも軽減されることから、玄米粉の回収率が向上し、製粉機のメンテナンスも容易である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:中小規模の農産物加工場、製パン・製菓製造業者等
  • 普及予定地域・普及予定面積:全国
  • その他:米粉ケーキ・クレープ専門店での試作を検討中

具体的データ

図1 吸水時間による膨らみの経時的変化
図2 吸水時間による比容積と損傷デンプン含量
図3 食味試験表1 玄米粉パンの栄養学的評価

(濱田茂樹)

その他

  • 中課題名:イネゲノム解析に基づく品質形成生理の解明と育種素材の開発
  • 中課題番号:221d.2
  • 予算区分:交付金、委託プロ(加工)
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:濱田茂樹、青木法明、鈴木保宏
  • 発表論文等:1) 濱田ら「新規なパン用玄米粉製造方法及び該方法で製造された玄米粉」特願2010-152025
                       2) Hamada S. et al. (2012) Food Sci. Technol. Res. 18 (1) : 25-30