大豆の冠水抵抗性機構においてユビキチン-プロテアソーム分解が抑制される

要約

大豆の出芽期における冠水抵抗性試験を毎世代継続することにより、選抜されたγ線照射由来突然変異体においては、冠水時にユビキチン-プロテアソーム分解機構が抑制されている。

  • キーワード:大豆、湿害、出芽期、冠水抵抗性突然変異体、プロテオミクス
  • 担当:作物開発・利用・麦・大豆遺伝子制御
  • 代表連絡先:電話 011-857-9382
  • 研究所名:作物研究所・畑作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国の水田転換畑における大豆の栽培では、湿害が発生し生産が不安定となるので、耐湿性大豆品種の開発が必要である。特に梅雨期は大豆の出芽期にあたり、この時期の耐湿性機構の解明は湿害を改善するために重要である。しかし、冠水抵抗性を示す大豆栽培品種は報告されていないため、耐湿性機構の解明には至っていない。そこで、冠水抵抗性を示す突然変異体を選抜し、プロテオミクス解析手法を用いて変動するタンパク質群を明らかにすることにより、耐湿性機構に関する分子生物学的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • γ線照射(200Gy)した大豆種子(原品種「エンレイ」)を栽培し、15,120粒のM2種子を得た。M2世代以降、出芽期に7日間の冠水処理し、その後水除去7日目での生存率を指標とした冠水抵抗性試験を毎世代継続することにより、3系統の冠水抵抗性を示す突然変異系統(M6)が選抜される。
  • 出芽期の6日間の冠水処理では野生型は生存できないが、突然変異体はその後の水除去で生長を開始し、8日目において初生葉を展開する(図1左)。また出芽期に3日間の冠水処理後水除去しても野生型においては根の生育阻害を示すが、突然変異体の根の生育は回復する(図1右)。
  • 突然変異体と野生型を播種2日目で2日間冠水処理し、変動するタンパク質群を解析すると、冠水ストレス下で増減する細胞壁、二次代謝、生長・発達に関与するタンパク質数は、突然変異体では抑制される(図2)。また、細胞死に関わるユビキチン-プロテアソーム分解系タンパク質群が変異体では誘導されず低いレベルとなる(図3)。
  • 冠水処理をした突然変異体を細胞死を検出するエバンスブルー染色によって解析した結果、突然変異体においては根端の細胞死が抑制されている(図4)。本変異体では細胞死の抑制が冠水ストレスの回避につながるひとつの要因である。

成果の活用面・留意点

  • 本研究を推進することにより、冠水抵抗性大豆の選抜指標を明らかにし、大豆耐湿性機構を特定することが可能である。
  • 品種エンレイを冠水抵抗性突然変異体に戻し交雑して、耐湿性機構に関与する原因遺伝子を特定することが可能である。

具体的データ

 図1~4

(小松節子)

その他

  • 中課題名:ゲノム情報を活用した麦・大豆の重要形質制御機構の解明と育種素材の開発
  • 中課題番号:112g0
  • 予算区分:交付金、タカノ農芸化学研究助成金
  • 研究期間:2007~2012年度
  • 研究担当者:小松節子、西村実(農業生物資源研究所)、南條洋平、藤郷誠
  • 発表論文等:Komatsu S. et al. (2013) Journal of Proteomics, 79:231-250