水稲多収品種「タカナリ」の高光合成能に関与するQTL-GPSの遺伝子単離

要約

水稲多収品種「タカナリ」が有する高光合成能QTL-GPS は、葉の形態を制御する遺伝子NAL1 の変異型であり、葉身の葉肉細胞数を増加させることで光合成能を高める。

  • キーワード:イネ、個葉光合成能、QTL、マップベースクローニング、葉肉細胞
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8952
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネの収量性の向上には、シンク容量に加えて光合成能などのソース能の向上が必要である。多収品種「タカナリ」は個葉光合成能が高く、その遺伝的要因の1つとして第4染色体長腕にQTL-GPS が検出されているが、候補遺伝子は単離・同定されていない。本研究では、「タカナリ」と「コシヒカリ」の交雑由来遺伝解析材料を用いてGPS の候補遺伝子を単離・同定し、高光合成能に関わるメカニズムを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 組換え固定系統を用いたマップベースクローニングにより、 InDel_4_135とInDel_4_105の間の23.5kbが「タカナリ」型である系統は「コシヒカリ」型よりも個葉光合成速度が増加する(図1)。
  • 候補領域23.5kbには候補遺伝子が3つ存在するが、そのうちの1つであるNAL1 の形質転換体はコントロールの「コシヒカリ」よりも発現量が低下し、個葉光合成速度は増加する(図2)。
  • GPS の「コシヒカリ」背景準同質遺伝子系統(コシヒカリNIL-GPS )は「コシヒカリ」よりも葉身の葉肉細胞数が増加することで葉厚が増し、「タカナリ」背景準同質遺伝子系統(タカナリNIL-GPS )は「タカナリ」よりも葉肉細胞数が減少し葉厚が減少する(図3)。
  • 以上より、GPS の原因遺伝子はNAL1 であり、「タカナリ」の高光合成能に関わる要因の1つは葉身の葉肉細胞数の増加に伴う葉の厚みである。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝子マーカー化により、高光合成系統の効率的な選抜が可能になり、育種に活用できる。
  • 単位葉面積当たりの光合成速度に関わる遺伝子の単離であるため、群落レベルの光合成能や収量性への寄与は別途検証が必要である。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題整理番号:112b0
  • 予算区分:委託プロ(新農業展開、次世代ゲノム基盤)
  • 研究期間:2008~2013 年度
  • 研究担当者:高井俊之、荒井裕見子、吉永悟志、近藤始彦、安達俊輔(生物研)、矢野昌 裕(生物研)、山本敏央(生物研)、平沢正(東京農工大)、大川泰一郎(東京農工大)
  • 発表論文等:Takai T. et al. (2013) Scientific Reports 3:2149