溶存酸素濃度低下を反映して増加する大豆タンパク質は冠水障害の指標になる

要約

出芽期大豆の冠水障害評価系において冠水液中の溶存酸素濃度低下を反映してポリガラクツロナーゼ阻害タンパク質およびエクスパンシン様タンパク質が増加する。これらタンパク質の量的変化を冠水障害の指標として利用できる。

  • キーワード:大豆、湿害、出芽期、冠水障害評価系、冠水障害指標タンパク質
  • 担当:作物開発・利用・麦・大豆遺伝子制御
  • 代表連絡先:電話 011-857-9382
  • 研究所名:作物研究所・畑作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田作大豆に発生する湿害はその生育や収量そして品質を著しく低下させる。大豆の播種時期が梅雨と重なることから出芽の時期に湿害は発生しやすく大豆栽培の課題となっている。そこで出芽時の冠水により発生する湿害の機構解明のため、冠水障害評価系を構築し冠水障害の程度を決める要因について解析し、湿害発生に関する生理学的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 播種2日後の大豆「エンレイ」を冠水する際、冠水下における大豆芽生えの密度、120mLの一定水量に対する芽生え数を増加させることにより、大豆自身の溶存酸素消費を利用することで冠水液中の溶存酸素濃度を段階的に低下させることができる(図1)。
  • 5日間の冠水終了後3日生育後に観察される障害である胚軸・根の伸長生長抑制および根端の壊死・脱落が、冠水液中の溶存酸素濃度の低下に伴い顕著に起こる(図2)。この評価系により冠水液中の溶存酸素濃度と冠水障害の程度を制御することができる。
  • 上記評価系により溶存酸素濃度を段階的に低下させることで、冠水2日目の大豆の根端・根端を除く根・胚軸においてポリガラクツロナーゼ阻害タンパク質およびエクスパンシン様タンパク質が段階的に増加する(図3)。これらタンパク質の増加は、遺伝子の転写産物(mRNA)量の増加を反映する(図4)。
  • 以上よりこれらタンパク質の量的変化を冠水液中の溶存酸素濃度および冠水障害の指標として利用できる。

成果の活用面・留意点

  • 溶存酸素濃度を制御できる冠水障害評価系を活用することで湿害発生の機序に関する知見を得ることができる。
  • 冠水障害指標タンパク質のポリガラクツロナーゼ阻害タンパク質およびエクスパンシン様タンパク質の量を調べることにより冠水障害の指標として利用できる。
  • 本研究で検出した冠水障害指標タンパク質は品種「エンレイ」において検出したもので、他の品種について再現性を求める必要がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:ゲノム情報を活用した麦・大豆の重要形質制御機構の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号:112g0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:南條洋平、中村卓司、小松節子
  • 発表論文等:1) Nanjo Y. et al. (2013) J. Proteome Res. 12 (11) :4785-4798