飼料用イネのセシウム濃度の品種間差

要約

飼料用イネの地上部全体および粗玄米のセシウム濃度には品種間差があり、インド型品種で高く、日本型品種では「ふくひびき」などが双方の濃度が低い傾向にある。また、セシウム濃度の茎葉部と粗玄米の比にも品種間差が存在する。

  • キーワード:水稲、飼料用イネ、セシウム、濃度、品種間差
  • 担当:放射能対策技術・移行低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-8809
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

飼料用イネにおける放射性セシウム濃度の低減対策の1つとして、放射性セシウム濃度の低い品種の利用が考えられる。特に、飼料用イネでは、草型や遺伝的背景などに変異が大きいため、品種選択による低減効果が大きいことが期待できる。そこで、幅広いタイプの飼料用イネ品種を栽培し、稲発酵粗飼料(稲WCS)として利用される地上部全体および飼料用米として利用される粗玄米のセシウム濃度の品種間差を明らかにする。濃度測定に当たり、2012年は茨城県つくばみらい市の水田圃場において20品種3反復で非放射性のCs-133について濃度を比較し、2013年は福島県内のある圃場において9品種5反復でCs-134とCs-137の合計である放射性セシウムの濃度を比較する。また、土壌混入の影響を避けるための稲体地上部の刈取り高さは、2012年は10cm、2013年は15cmとする。

成果の内容・特徴

  • 稲WCSでの利用を想定した地上部全体のセシウム濃度(水分80%換算値)は、両年ともインド型品種の多くで日本型品種と比べ有意に高く、最大で2.1-3.3倍の品種間差がある(表1、表2)。日本型品種の中でも品種間差はあるが、「ふくひびき」などは両年とも濃度が安定して低い水準にある。
  • 粗玄米のセシウム濃度は、暫定許容値基準にあわせて15%に水分換算すると、稲WCSを想定した地上部全体の濃度と比較して高い(表1、表2)。粗玄米のセシウム濃度は、地上部全体と同様にインド型品種の多くで日本型品種と有意な差があり、最大で3.0-4.5倍の開きがあり、地上部全体よりも差が開く傾向がある。日本型品種の中でも「ふくひびき」などは濃度が安定して低い水準にある。
  • 両年を通じて見た場合、地上部全体のセシウム濃度と籾わら比、1株当たり粗玄米重との間に安定した相関関係は認められないが、1株当たり地上部全乾物重との間には2012年、2013年でそれぞれR=0.54、0.59の正の相関関係が認められた。以上より、インド型品種は地上部全体での生育量の大きいものが多いが、このことによるセシウムの希釈効果はなく、遺伝的にセシウムを多く吸収する傾向があると示唆された。
  • 茎葉部および地上部全体に対する粗玄米のセシウム濃度比は、圃場や核種の違いに関わらず傾向が一致しており品種間差があると考えられる(表3)

成果の活用面・留意点

  • 放射性セシウム濃度の低減対策としてはカリウム施用等が有効と考えられているが、飼料用イネではセシウム濃度の品種間差が認められるので、「ふくひびき」など放射性セシウムを蓄積しにくい品種の利用も低減対策として有効になると考えられる。
  • 両年とも圃場への施肥水準は、N、P2O5、K2Oをそれぞれ基肥で8kg/10aずつとした。作付け開始前の土壌の交換性カリウム含量は、2012年、2013年においてそれぞれ34.8、6.93mgK2O/100gであった。2013年は品種間差が明確に表れるよう、通常推奨される除染やカリウム施用による吸収抑制対策をせず、生産物については焼却処分した。

具体的データ

表1~2

その他

  • 中課題名:農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
  • 中課題整理番号:510b0
  • 予算区分:委託プロ(除染プロ)
  • 研究期間:2012~2013年度
  • 研究担当者:後藤明俊、近藤始彦、石川覚(農環研)、牧野知之(農環研)、井倉将人(農環研)