硬くなりにくく和菓子への加工適性を有する、多収の水稲糯新品種「やたのもち」

要約

「やたのもち」は温暖地東部では「マンゲツモチ」と同等に中生の熟期に属し、「マンゲツモチ」よりも13%程度高い収量性を示す。餅の硬化性が低く、大福等の和菓子への加工適性を有している。

  • キーワード:水稲、糯、多収、難硬化性
  • 担当:作物開発・利用・水稲品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話029-838-8950
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

糯米は和菓子や切り餅等の加工用原料として用いられているが、米の内外価格差は依然大きく存在している状況であり、国産糯米の需要を守っていくためにも、従来よりも高付加価値で生産性の高い糯米の開発が求められている。また、大福等の和菓子に関しては、やわらかさが持続することが求められており、硬くなりにくい糯米を使用することが出来れば、添加物の低減による低コスト化や製品の高付加価値化に寄与するものと考えられる。そこで、餅が硬化しにくく、多収の糯品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「やたのもち」は「マンゲツモチ」熟期の多収で良質な糯品種を育成することを目標として、台湾で育成された多収糯品種「台中糯70号」と、国際稲研究所(IRRI)で育成された極穂重型の系統である 「IR65564-44-5-1」の交雑後代より育成された品種である。(表1)
  • 「やたのもち」の早晩性は出穂期、成熟期とも育成地で「マンゲツモチ」と同程度であり、"中生の早"に属する糯種である(表1)。
  • 「やたのもち」の稈長は「マンゲツモチ」と比較して11cm程度長く、耐倒伏性は「マンゲツモチ」と同程度の'やや弱'である(表1、写真1)。
  • 「やたのもち」の収量性は「マンゲツモチ」に比べて育成地で13%程度高く、玄米の外観品質は「マンゲツモチ」並であり、餅の食味は「マンゲツモチ」と同程度の"上中"である(表1)
  • 餅の硬化性は「マンゲツモチ」より低い(表1、写真2)。餅菓子製造用の機械で製造した餅の官能成績は良好で、おいしさややわらかさの経時変化も「マンゲツモチ」に比べ小さく、和菓子への加工適性があると考えられる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 北陸および関東以西の地域での栽培に適している。和歌山県田辺市等で和菓子の製品化への取り組みが進められており、今後、数ha程度の実用栽培が見込まれている。
  • 枯れ上がりが早く、耐倒伏性が弱いために適期を逃すと倒伏が著しく生じる可能性がある。脱粒性が"中"であり、穂発芽も"やや易"であることと合わせて、刈り遅れには十分注意する。
  • 稈長が長いので、倒伏を避けるためにも過度の施肥は控える。
  • 白葉枯病には極弱なので、常発地帯での栽培は避ける。
  • いもち病に関しては不明の真性抵抗性遺伝子を持つと考えられるので、侵害菌の発生に注意し、発生した場合は迅速に防除を行う。
  • ふ先色は"白"であり、種子について一般食用米と混ざらないよう注意を要する。

具体的データ

写真1~2,表1~2

その他

  • 中課題名:米粉等加工用・業務用水稲品種の育成及び米の未利用成分利用技術の開発
  • 中課題整理番号:112a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1998~2014年度
  • 研究担当者:後藤明俊、山口誠之、石井卓朗、平林秀介、竹内善信、小林伸哉、黒木慎、加藤浩、春原嘉弘、根本博、安東郁男、井邊時雄、佐藤宏之、前田英郎、田中淳一、津田直人、常松浩史、池ヶ谷智仁、太田久稔、出田収、平山正賢(茨城県)、青木法明、坂井真、田村和彦(岩手県)