開花時高温不稔の回避に有効なイネ近縁野生種由来早朝開花性QTL

要約

イネ近縁野生種O. officinalis由来の早朝開花性系統「EMF20」は2つの早朝開花性QTL(qEMF3,qEMF8)を持つ。そのうちqEMF3は「南京11号」遺伝背景下で、開花を1時間30分早める効果があり、早朝の比較的低温下で開花することから、開花時の気温が35°C以上で発生する高温不稔を回避できる。

  • キーワード:イネ、近縁野生種、高温不稔、早朝開花性、QTL解析
  • 担当:作物開発・利用・水稲品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8536
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネは高温に対して開花時に最も感受性が高く、今後の温暖化の進行により高温不稔を誘発するレベルの異常高温に遭遇する可能性がある。開花時刻の早朝化は開花時の高温不稔軽減に有効な形質である。O. officinalis由来の早朝開花性についてQTL解析を行うとともに,検出された2つのQTLのうち第3染色体短腕上のQTL(qEMF3)について,早朝開花性の効果の確認、高温不稔回避性の確認を行う。

成果の内容・特徴

  • 「EMF20」(農林29号4X/O.officinalis//コシヒカリ)の早朝開花性は2つの早朝開花性QTL(qEMF3qEMF8)を持つ(表1)。
  • 「南京11号」遺伝的背景のqEMF3遺伝子型における「EMF20」ホモ型、ヘテロ型、「南京11号」ホモ型、「南京11号」の開花開始時間は、6:54、7:47、8:30、8:23であり、開花ピーク時間は、8:50、9:21、10:20、10:24である。qEMF3は「EMF20」ホモ型の時、「南京11号」より、開花開始時間で1時間29分、開花ピーク時間で1時間34分有意に早める(図1)。
  • グリーンハウス内での「南京11号」は7時~14時に開花するのに対し、「南京11号+qEMF3」(「南京11号」準同質遺伝子系統)は、6時から11時に開花する(図2)。
  • 高温下で開花する「南京11号」の不稔率が60%程度なのに対し、温度の低い早朝に開花する「南京11号+qEMF3」は、1.2%であり、有意に高温不稔を回避できる(図2)。両系統とも、グロスチャンバー内で開花時に高温処理(38°C)すると30%程度の不稔が発生する。両系統の高温耐性は同等と考えられる(データ略)。

成果の活用面・留意点

  • 本実験で用いた早朝開花性qEMF3は、高温不稔を回避する有用なQTLである。
  • 早朝開花試験および不稔率の試験は、それぞれつくばみらい市およびつくば市でのポット試験の結果であり、圃場での検定は行っていない。
  • 早朝の高い湿度条件の中でも、「南京11号+qEMF3」は、問題なく稔実する(図2)。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:米粉等加工用・業務用水稲品種の育成及び米の未利用成分利用技術の開発
  • 中課題整理番号:112a0
  • 予算区分:交付金、交付金プロ(温暖化適応)
  • 研究期間:2006~2014年度
  • 研究担当者:平林秀介、石丸努(JIRCAS、IRRI)、神戸崇(新潟県)、竹本陽子、竹内善信、小川紹文、梶亮太、近藤始彦、安東郁男
  • 発表論文等:Hirabayashi H. et al. (2015) J. Exp. Bot. 66(5):1227-1236