「タカナリ」の脱粒性を改善した中生の多収性水稲新品種「オオナリ」

要約

「オオナリ」は多収性品種「タカナリ」の突然変異系統で、温暖地東部では熟期が"中生の早"に属する粳種である。原品種「タカナリ」に比べて脱粒性が改良されているため、収穫時の収量損失が少なく、粗玄米収量は約7%多収となる。

  • キーワード:イネ、多収、飼料用米、脱粒性
  • 担当:自給飼料生産・利用・飼料用稲品種開発
  • 代表連絡先:電話 029-838-8950
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

飼料用米生産の推進に伴い、多収性品種の作付けの拡大に向けた取組みが進められている。温暖地向きの多収性品種としては「タカナリ」が育成され利用されてきた。しかし「タカナリ」は脱粒しやすく、刈り遅れた場合など収穫期の収量ロスが多い。そこで、「タカナリ」の脱粒性を改良した品種の育成を行う。

成果の内容・特徴

  • 「オオナリ」は、多収性品種「タカナリ」のγ線照射による突然変異個体から選抜された粳種である。
  • 育成地における出穂期、成熟期は「タカナリ」と同じ"中生の早"に属する(表1)。
  • 稈長、穂長は「タカナリ」並、穂数は「タカナリ」並かやや多く、草型は"穂重型"である(表1、図)。
  • 籾の脱粒程度に関わる曲げ応力が大きく、脱粒性は「タカナリ」の"易"に対し "中"に改良されている(表1、表2)。
  • 脱粒性の改良により収穫期の収量ロスが少なくなるため、粗玄米収量は早植・多肥区で94.0kg/aと高く、「タカナリ」に比べて7%程度多収となる(表1)。
  • 耐倒伏性は "極強"、穂発芽性は"極難"、 耐冷性は"極弱"で、いずれも「タカナリ」並である(表1)。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子型は、PiaPibPita-2Pi20のうち複数の遺伝子を持つと推定される。圃場抵抗性は、葉いもちは"弱"、穂いもちは不明である。白葉枯病抵抗性は"中"である。縞葉枯病には"抵抗性"である(表1)。
  • 玄米の外観品質は「タカナリ」並で、「日本晴」より劣る"下上"である(表1)。粒形はやや細長く、食用品種と識別が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 栽培適地は関東以西である。栃木県宇都宮市内で「タカナリ」に替えて数haの普及が見込まれる。
  • 耐冷性が弱いため、冷害の恐れのある地域での栽培は避ける。
  • 種子の休眠性が深いため、播種に際して休眠打破などの処理が必要である。
  • いもち病は真性抵抗性により通常発生しないことが多いが、圃場抵抗性は弱のため、種子消毒等慣行防除を徹底するとともに、侵害菌の発生に注意し、罹病した場合は防除する。
  • トリケトン系4-HPPD阻害型除草成分(ベンゾビシクロン、テフリルトリオン、メソトリオン)に感受性が高いため、それらを含む除草剤は使用しない。
  • 苗丈がやや短いので、育苗時や田植え後に冠水しないよう水管理に留意する。

具体的データ

図,表1~2

その他

  • 中課題名:低コスト栽培向きの飼料用米品種及び稲発酵粗飼料用品種の育成
  • 中課題整理番号:120a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(えさプロ、国産飼料)
  • 研究期間:2008~2014年度
  • 研究担当者:小林伸哉、石井卓朗、山口誠之、平林秀介、竹内善信、後藤明俊、黒木慎、田中淳一、常松浩史、加藤浩、春原嘉弘、安東郁男、根本博、太田久稔、前田英郎、佐藤宏之、池ヶ谷智仁、津田直人
  • 発表論文等:品種登録出願2015年6月17日(第30270号)