小型ピロプラズマ病発病における牛の品種間差

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要約

ホルスタイン種牛は黒毛和種牛に比べ,小型ピロプラズマ病に対する感受性が高いことが実験室内感染試験の結果初めて明らかになった。この品種間の感受性の差は原虫の赤血球レベルでの増殖性の相違に起因する可能性は低い。

  • 担当:草地試験場放牧利用部衛生管理研究室
  • 連絡先:0287(36)0111
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:家畜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

牛小型ピロプラズマ病は貧血,発育停滞などを主症状とするわが国の代表的な放牧病である。本病の発病は様々な要因によって修飾されるといわれているが,牛品種間においても感受性に差があることが経験的に知られている。そこで,ホルスタイン種牛(H種)および黒毛和種牛(B種)を用いて一定環境条件下で感染実験を行い,本事象を明らかにするとともに,その機序についても牛赤血球を移入したSCIDマウス(重症複合性免疫不全マウス)モデルを用いて検討した。

成果の内容・特徴

室温20℃の環境条件下において同一の栄養水準で飼養している小型ピロプラズマ非感染のH種およびB種に小型ピロプラズマ原虫(Theileriasergenti:TS)感染マダニを100個体吸血させることにより人工感染させ,その後の原虫寄生率や血液成分を測定した。また,TS非感染H種赤血球あるいは同B種赤血球を移入したSCIDマウスを作成し,各々にTSを感染させた後それぞれ他品種牛の赤血球を移入し,異品種牛赤血球間のTS感染性の差を調べた。

  • マダニの吸血開始あるいは飽血落下までの時間および飽血パターンには両品種間で大きな差は見られず,吸血後6日目までに94%以上のダニが飽血落下した。
  • 両品種ともにマダニ吸血開始後11日目頃に一過性の体温上昇が見られたが,H種ではB種よりも約0.6℃高かった。
  • 両品種ともにマダニ吸血開始後12日目頃より血液中にTSが確認され,その後寄生率は上昇したが,H種ではB種に比べて寄生率は明らかに高く,その高い寄生率はより長く維持された(図1)。
  • 両品種ともにTS寄生率の上昇に伴い,赤血球数およびヘマトクリット(Ht)値は減少したが,これらはH種ではB種より低い値を示した(図1)。
  • SCIDマウスを用いた両品種牛赤血球間のTSピロプラズマ原虫寄生率はほぼ同程度に増加し,両品種の赤血球レベルでの原虫の増殖性に差はなかった(表1)。

成果の活用面・留意点

  • H種牛はB種牛に比べ、小型ピロプラズマ病に対する感受性が高いことが明らかとなった。本結果は両品種牛における放牧管理および衛生管理条件設定の際に参考となる。
  • 品種間差の生じる機序については牛体内での原虫の発育・増殖と免疫機能との関連性や原虫寄生赤血球クリアランス機能等の検討が必要である。

具体的データ

図1.感染実験におけるホルスタイン種牛及び黒毛和種牛の原虫寄生率、ヘマトクリット値の推移

 

表1.異なる品種の牛赤血球間での小型ピロプラズマ原虫寄生率

 

その他

  • 研究課題名:小型ピロプラズマ病発病における牛の品種間差とそれを支配する要因の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度~平成7年度
  • 発表論文等:
    • J.Vet.Med.Sci.,57:1003-1006.(1995)
    • 第116回日本獣医学会講演要旨集,p.121.(1993)
    • 第118回日本獣医学会講演要旨集,p.128.(1994)
    • 第119回日本獣医学会講演要旨集,p.108.(1995)