乳酸菌プロテイナーゼ遺伝子のクローニングと塩基配列

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要約

乳酸球菌(Lactococcus lactis)のプロテイナーゼ遺伝子をプロテイナーゼ非生産株にク ローン化し、発現させた。さらに、プロテイナーゼ遺伝子とその近傍の塩基配列( 7731bp )を決定した。

  • 担当:畜産試験場加工部加工第3研究室
  • 連絡先:0298-38-8688
  • 部会名:畜産
  • 専門:加工利用
  • 対象:細菌
  • 分類:研究

背景・ねらい

チーズなどのスターターとして用いられるLactococcuslactisのプロテイナーゼは、遊離アミノ酸の少ない牛乳中での乳酸球菌の生育には不可欠であり、また発酵乳製品の風味などにも大きく貢献している。しかし、プロテイナーゼ生産性は遺伝的に不安定で、プラスミドにコードされると考えられる。本研究は、このプラスミドの機能を確認し、プロテイナーゼ遺伝子の構造を明らかにすることにより乳業用乳酸菌の育種改良に資することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • L.lactisからプラスミドを単離し、制限酵素により部分分解したフラグメントをベクターに連結し、L.lactisのプラスミドフリー株(プロテイナーゼ非生産株)に形質転換し、プロテイナーゼ活性を示す株を選択した(図1)。
  • L.lactis5株からプロテイナーゼ遺伝子がクローン化され、これらはα、β-カゼインを分解する基質特異性などからPIIIタイプセリンプロテイナーゼであることが示され、これらの制限酵素地図は相同性を示した(図2)。
  • L.lactis565株からクローン化されたHindIII6.5kbフラグメントについて塩基配列を決定したが、プロテイナーゼ遺伝子(prtP)のC末端が欠けていたため、さらにサザンハイブリダイゼーションによりC末端をカバーするPstI-EcoRV1.5kbフラグメントをクローン化し、全長7731bpのなかに1960アミノ酸残基コードするprtPの全塩基配列を決定した。
  • 塩基配列から推定されるアミノ酸配列を既報のL.lactisプロテイナーゼと比較すると、Metから始まる33アミノ酸配列は同一で、A1a-X-A1a-A1aのモチーフがシグナルペプチターゼIで開裂するSec依存性シグナルシークエンスであり、つづく152アミノ酸残基はプロシークエンスで、この部分には2アミノ酸の欠失がみられる。セリンプロテイナーゼの活性中心となる、Asp30,His94,Ser433には変化はなく、基質結合に関与すると考えられている部分はThr138,Asp166,Leu747,Thr748でL.lactisWg2のPIタイププロテイナーゼと一致した。C末端側にはL.lactisSK11と同じく180bpの繰り返し配列があり、PIタイププロテイナーゼ(L.lactisWg2,763)より60アミノ酸残基分長い。結果的に、prtP全体として、既報のWg2,763,SK11とは29,31,66アミノ酸の違いが認められた。
  • prtPの上流には、ATリッチでプロモーターを含む領域をはさんで逆向きにプロテイナーゼの熟成に関与するマチュラーゼ遺伝子(prtM)が存在するが、既報の配列と同一で、保存性が高かった。

成果の活用面・留意点

L.lactisプロテイナーゼ遺伝子をクローン化し、塩基配列を決定したことにより、プロテイナーゼの安定化などの育種改良への基礎を開き、菌株間での活性や特異性の違いを比較する素材を提供した。

具体的データ

図1.ミルク培地中でのプロテイナーゼ陽性形質転換体の生育とpHの変化 図2.プロテイナーゼ遺伝子の制限酵素地図の比較

 

その他

  • 研究課題名:乳業用乳酸菌プラスミドの構造と機能
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(昭和62~9年度)
  • 発表論文等:
    1)乳業用乳酸菌プロテイナーゼ遺伝子のクローニング. 日本農芸化学会誌,66(3),p553 (1992)
    2)Lactococcus lactisのプラスミドの構造の比較.乳酸菌研究集団会誌, 3(1),p8 (1992)