イネ・キチナーゼ遺伝子を導入した形質転換トールフェスクの作出

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

プロトプラストへの直接遺伝子導入法によりイネ・キチナーゼ遺伝子を導入したトールフェスク組換え体を多数作出し,その中から葉腐病菌に対する抵抗性程度の高まった個体を見いだした。

  • 担当:草地試験場・育種部・育種工学,牧草育種,育種資源研究室
  • 連絡先:0287-37-7553
  • 部会名:草地・育種
  • 専門:バイテク
  • 対象:牧草類
  • 分類:研究

背景・ねらい

重要な寒地型イネ科牧草であるトールフェスクに葉腐病などの糸状菌病に対する飛躍的な耐性を付与することを目的として,プロトプラストへの直接遺伝子導入によりイネ由来のキチナーゼ遺伝子を導入した形質転換個体を作出する。

成果の内容・特徴

  • 液体培養細胞より単離したトールフェスク(品種ヤマナミ,マナード)プロトプラストにハイグロマイシン耐性遺伝子(pTZR5=プラスミドベク ター)またはG418耐性遺伝子(pWI-K6=コムギジェミニウィルス由来シャトルベクター)とともにイネ・キチナーゼcDNA(農業生物資源研究所西 澤博士より分譲)を直接導入し,数多くの上記抗生物質耐性再分化個体を得た。サザン法あるいはPCR法(写真A)により,キチナーゼ遺伝子が抗生物質耐性 遺伝子とともにco-transformされた個体を多数見いだした。
  • イネ・キチナーゼ遺伝子を導入した形質転換個体(品種マナード)は,葉に葉腐病菌を人工接種すると,病斑の色が同一遺伝子型の非形質転 換体に比べて薄く(写真B),また菌糸の侵入による細胞の破壊が少なかった(写真C)。さらに,もみがら培地に培養した菌をポットの植物体に接種した試験 では対照やハイグロマイシン耐性遺伝子のみを持つ形質転換体が枯死したのに対し,イネ・キチナーゼ遺伝子を持つ形質転換体は生き残った(写真D)。即ち, イネ・キチナーゼ遺伝子を導入した形質転換トールフェスクは葉腐病菌に対する抵抗性程度が高まった。(写真A~D)

成果の活用面・留意点

  • 抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子以外の有用遺伝子の導入されたトールフェスクが世界で初めて作出された。耐病性育種のための素材として活用される。
  • 組換え体の模擬的環境下での各種病害抵抗性検定並びに稔性の確認が必須。

具体的データ

写真A-D イネ・キチナーゼ遺伝子を導入した形質転換トールフェスクの作出

その他

  • 研究課題名:キチナーゼを利用した高度耐病性イネ科牧草の作出
  • 予算区分 :特別研究(バイテク植物育種)
  • 研究期間 :平成8年度(平成6年~平成8年)
  • 研究担当者:高溝正・藤森雅博・秋山典昭・小松敏憲・斎藤祐二・荒谷博・杉田紳一・廣井清貞
  • 発表論文等:高溝正・西澤洋子・宇垣正志・藤森雅博・小松敏憲・日比忠明 1996. 抗生物質耐性遺伝子と
                      イネ・キチナーゼcDNAによるトールフェスク・プロトプラストのco-transformation
                       育雑 46:(別1)258.
                       高溝正・西澤洋子・宇垣正志・藤森雅博・秋山典昭・月星隆雄・小松敏憲・日比忠明 1997.
                       イネ・キチナーゼcDNAを導入したトールフェスクの牧草葉腐病に対する反応
                        育雑 47:(別1) 150.