ケンタキーブルーグラスの種子繁殖と放牧家畜の排糞による拡散

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要約

オーチャードグラスやペレニアルライグラスに比べ、ケンタッキーブルーグラスの種子繁殖には放牧家畜の排糞が貢献している。傾斜草地での糞の分布は、平均傾斜度が緩くなるにつれて増加する傾向にあり、排糞を利用して種子散布を行っている草種の侵入速度および量は平均傾斜度に関係している。

  • 担当:草地試験場・山地支場・山地草地研究室
  • 連絡先:0267-32-2356
  • 部会名:草地・永年草地
  • 専門:生態
  • 対象:牧草類
  • 分類:研究

背景・ねらい

放牧の経年的な進行に伴うケンタッキーブルーグラス優占化の過程では、分布域の飛躍的な拡大を可能にする種子繁殖が栄養繁殖と同様に重要な役割を果たしているものと考えられる。ここでは、その種子繁殖の特性を放牧家畜との関係から明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1黒毛和種育成牛に経口給与された牧草種子の排出量は、給与後24~48時間にピークを持ち、総排出量の80~90%が72時間までに回収され た。給与種子の回収率はケンタッキーブルーグラス>ペレニアルライグラス>オーチャードグラスの順に高く、回収した種子の発芽率もケンタッキーブルーグラ スが最も高かった(図1)。
  • 放牧草地ではケンタッキーブルーグラスの開花は6月中旬に始まり、6月末にはその大半が結実した。糞中には種子は7月上旬~8月中旬にかけて確認され、7月中旬に含有量が最も多かった(図2)。
  • シバ型草地(牧草類が混在する)に隣接したササ地調査区(傾斜があり、牧草類は播種されていない)では、地形に伴って植生や糞の分布が変化した(図3)。主な出現草種の被度と平均傾斜度との関係では、ササやススキなど野草類との間には正の相関関係が、ケンタッキーブルーグラスやホワイトクローバなど糞由来と考えられる草種との間には負の相関関係がそれぞれ認められた(表1)。
  • 以上より、ケンタッキーブルーグラスはオーチャードグラスやペレニアルライグラスに比べ、排糞による種子繁殖に有利な性質を保持していると考えられた。糞の分布は平均傾斜度が緩くなるにつれて増加する傾向にあるが(表1)、排糞を利用して種子散布を行っている草種の侵入速度および量はこの関係に比例するものと考えられた。

成果の活用面・留意点

  • 寒冷地に立地する傾斜放牧草地の植生遷移に関する基礎的な知見となる。
  • 傾斜放牧草地における排糞(放牧圧)の分布に関しては、成果情報 第11号 p.109-110を参照されたい。

具体的データ

図1 給与種子の糞中排出に伴う発芽率の変化

図2 糞中に含まれるケンタッキーブルーグラス種子の推移

図3 地形に伴う植生及び糞分布の変化

表1 ササ地調査区における各草種の被度と平均傾斜度および糞被度との関係

その他

  • 研究課題名:放牧家畜がケンタッキーブルーグラスの種子繁殖に及ぼす影響
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成7~9年度
  • 研究担当者:井出保行・林 治雄
  • 発表論文等:ケンタッキーブルーグラスの種子繁殖に及ぼす放牧家畜の影響(1)、日草誌、
                      42(別)、224-225、第2報は平成9年度 草地学会大会で発表予定