フタトゲチマダニの寄生活動と日長

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要約

フタトゲチマダニは放牧牛に寄生して小型ピロプラズマ病を媒介する重要な害虫である。本ダニの寄生活動は日長の影響を受け、明時間が14時間以上の長日条件で活発に活動することを明らかにした。

  • 担当:草地試験場・環境部・上席研究官
  • 連絡先:0287-37-7592
  • 部会名:草地・永年草地・放牧
  • 専門:生態
  • 対象:昆虫類
  • 分類:研究

背景・ねらい

吸血性フタトゲチマダニは牛のピロプラズマ病の媒介者であるため、本ダニの防除は放牧上極めて重要である。防除に当たっては本ダニの生態を知る必要があり、ここでは本ダニの吸血行動と日長との関係について調査を行い、防除のための基礎資料を得る。

成果の内容・特徴

  • フタトゲチマダニ成虫の活動率(呼気をかけた場合、それに反応して上部へ上がる個体の割合)は長日条件(16L-8D)では脱皮後5日目から高い値を示し、その後もほぼ80%以上で推移したのに対し短日条件(12L-12D)では観察期間を通して0%であった(図1)。寄主への付着率(ウサギに耳袋を付け、その中に成虫を入れ、24時間後に吸血を行っている個体の割合)は長日条件で脱皮後3日目から80%以上の値を示したのに対し、短日条件では40%以下の低い値となり、脱皮後、日数が経過するに伴って付着行動を示さなくなった(図1)。
  • 日長の明時間を16時間から12時間まで1時間刻みで5区(16L、15L、14L、13L、12L)を設定して、それぞれの条件下で 飼育した成虫の活動率を調査した結果、16L、15L、14Lの日長では処理後10日目頃から80%以上の高い値を示したが、13L、12Lの日長では 30%以下の低い値で推移した(図2)。
  • 成虫を25°C短日で飼育後、日長条件を長日に変化させたところ、約20日で80%以上の高い活動率であったのに対し、短日のまま変化させなかった個体は全く活動しなかった(図3)。
  • 成虫の生存率を長日(16L)、短日(12L)、全暗(0L)の3区で比較した結果、脱皮後150日目における生存率は長日で23.5%であったのに対し、短日と全暗条件ではそれぞれ90.5%、94.5%と高い値を示し、脱皮後300日目では長日で約9%、短日で約22%で あったが、全暗では約54%で長日区、短日区に比べて高かった(図4)。

成果の活用面・留意点

  • ワクチン等の研究を進める上で、ダニを実験室内で飼育した場合、日長を考慮していなかったため、しばしば吸血を行わない個体が出現し実験の支障になっていた。今後ダニの飼育の際に本成果が活用できる。
  • 殺ダニ剤等を用いて牧野のダニ駆除を実施するに当たって、防除時期を決定する際の参考資料となる。
  • 本成果を活用するに当たっては、ダニに対する温度の影響についても留意する必要がある。本実験ではすべて温度25°Cで実施したが、今までの研究でダニは温度15°C以上でよく活動することが判っている。

具体的データ

図1 脱皮後のフタトゲチマダニ成虫の活動率と奇主への付着率

図2 日長処理と成ダニの活動率の経時的推移

図3 日長の変化がフタトゲチマダニ成虫の活動率に及ぼす影

図4 各日長におけるフタトゲチマダニ成虫の生存率

その他

  • 研究課題名:小型ピロプラズマ原虫媒介マダニの吸血行動・原虫保有における日長の影響
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6~8年
  • 研究担当者:奥村隆史・原田真知子
  • 発表論文等:フタトゲチマダニの寄生行動、飢餓生存期間に及ぼす日長の影響.
                     奥村隆史・原田真知子・白石昭彦 第41回日本応用動物昆虫学会大会.1997.4