遺伝的マーカー情報を利用した近交・血縁関係の評価方法
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要約
個体の持つ配偶子同志が遺伝的に同一である確率(近交・血縁)は従来血縁関係をもとに期待値が計算されるが,これに遺伝的マーカーの遺伝情報を組合せて利用することにより,個体レベルでより正確な評価が可能となる。
- 担当:畜産試験場 育種部 計量遺伝育種研究室
- 連絡先:0287-38-8625
- 部会名:畜産
- 専門:育種
- 対象:家畜類
- 分類:研究
背景・ねらい
個体の持つ配偶子同士が遺伝的に同一である可能性を示す値(以後,遺伝的類似度とい
う)は,近交退化による繁殖性,強健性の低下や,遺伝的変異の減少による改良効率の低
下を防ぐために,また,種畜の能力評価における情報量の拡大のために,必須の数値とな
っている。この,遺伝的類似度は,一般に近交係数や血縁係数等の値(以後,血縁関係と
いう)として表されている。これらの値は,親から子へ1/2が伝わるという確率だけを基に計算されており,一対の配偶子のどちらが伝わったかの偶発的偏り
や,選抜の影響等は,考慮できない。そこで,マーカー多型による配偶子の伝達確率の情報を利用することにより,遺伝的類似度のより正確な評価を可能にす
る。
成果の内容・特徴
- 親子のマーカー遺伝子型の組み合わせによって配偶子の伝達確率が異なる。父母配偶子と集団中の他の配偶子の間の関連性からこの伝達確率に従い,個体と集団中の他の配偶子の間の遺伝的関連性を表す式を作成する。この式は,組み換え率の関数f(c)となる。
- マーカー周辺の遺伝的類似度は関数f(c)の積分で求められる。
- 配偶子全体の遺伝的類似度は,これらのマーカー周辺の類似度の平均で求められる。ここで周囲に有効なマーカーの存在しない部分については,従来の評価値(コアンセストリー)を使う。
- コアンセストリーが12.5%となるような家系についてシミュレーションを行ったところ,配偶子間の遺伝子の一致比率は12.5%±6.7%と.広い分布を示した(図1)。
- 本方法の評価値は,50個のマーカーの場合,12.5%±2.9%,実現値との相関74.5%となった。従来の評価値は一定の値であり,非常に高い相関である(表1)。
- マーカーの多型数が増えると情報量が多くなり,さらに高い相関(多型数5で85.0%)を示した(表2)。
成果の活用面・留意点
- 本方法で得られた値は,個体レベルの遺伝的類縁度を表すもので,近交係数や血縁係数よ
りも正確な指標として利用できる。
具体的データ



その他
- 研究課題名:遺伝的マーカーを利用した近交・血縁関係の評価法の開発
- 予算区分:経常
- 研究期間 :平成8年度(平成7~10年度)
- 研究担当者:武田尚人・古川 カ・小畑太郎・佐藤正寛・和田康彦・富樫研治-->
- 発表論文等:1)Use of Marker lnformation to Maintain Variability in Small
Populatons, Animal Genetic Resources:
Efficient Conservation and Effective Use,NIAR(1997)(印刷中)
2)Use of Marker lnformation to Help Conserve Small Populations.3rd
MAFF lnternational Workshop on Genetic Resources(1995)
3)家畜の遺伝的関連性(血縁)の評価にマーカー情報を利用した場合の効果.
第91回日本畜産学会講演要旨,p181(1996)
4)家畜の遺伝的関連性(血緑)に選抜のおよぼす影響.第92回日本畜産学会
講演要旨,p234(1997)