抗体磁気ビーズを用いたマウス生殖幹細胞株の作出

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要約

未分化細胞を特異的に認識する抗体(SSEA-1)と磁気ビーズにより始原生殖細胞を選択的に標識後,磁気カラムを用いて分離・精製した細胞から体外培養により幹細胞株を樹立する方法を開発した。

  • 担当:畜産試験場 繁殖部 生殖工学研究室・発生分化研究室
  • 連絡先:0287-38-7382
  • 部会名:畜産
  • 専門:繁殖
  • 対象:実験動物
  • 分類:研究

背景・ねらい

体外で末分化なまま増殖する胚由来の幹細胞株は個体への再構築が可能であ ることから、家畜における遺伝子組換え動物の作出や家畜の大量増産に有用な細 胞として注目されている。マウスではすでに2種類(ES、EG細胞)の生殖幹 細胞株が樹立されているが、再現性のある樹立方法は明確ではない。その大きな 原因は体外培養にともなって培養系に混入する分化細胞の存在であり、これらを 容易に除去できないことにある。本研究はこの点を改良するとともに、簡易で効 率的な生殖幹細胞株の樹立系の開発を目的として行った。

成果の内容・特徴

  • 本技術の特徴は、末分化細胞を特異的に認識する一次抗体(SSEA-1)と二 次抗体でコートした磁気ビーズで標的細胞を標識した後、磁気カラムを用いて選 択的に未分化細胞を分離・精製する手法である。
  • 本手法の妥当性を検討するために、既存の未分化(ES)細胞とマウス胎子 線維芽細胞との細胞混液からES細胞の分離・精製を試みたところ(図1)に示すように回収率・純度は一次抗体量により影響を受けるが20μg/300μlの抗体量 を用いたときに、いずれも80%以上となった。
  • 妊娠10.5~12.5日齢のマウス胎子から始原生殖細胞を含む切片を分離し、 ディスパーゼとコラゲナーゼにより細胞を解離後、ES細胞と同様にして始原生 殖細胞の分離・精製を試みたところ、(図2)に示すように回収率・純度は胚の日齢によって多少の変動は認められるが、11.5日齢胚ではほぼ90%の回収率と純度が 得られた。
  • 11.5日齢胚から得られた始原生殖細胞を各種成長因子を含むEG培地(20% ウシ胎子血清等含有D-MEM培地)中でS14-m220細胞を支持細胞として体外で 培養した結果、(図3)に示すようにLIF,bFGF及びフォルスコリンを添加した培地でのみ始原生殖細胞の増殖が認められ、その後培養を継続することにより8株の EG細胞株が得られた(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本手法によって得られた幹細胞株は強いアルカリフォスファターゼ活性を有 し、80%以上の細胞が正常染色体数を持つ。
  • 国内・海外特許出願中「抗体磁気ビーズを用いた生殖幹細胞の分離、精製と 幹細胞株の樹立方法」

具体的データ

図1 ES細胞の分離に及ぼす抗体濃度の影響

図2 各種胎子日齢からの始原生殖細胞の分離

図3 始原生殖細胞の体外培養

図4 EG細胞のコロニー

その他

  • 研究課題名:家畜の胚幹細胞を用いた組織再構築技術の開発
  • 予算区分:科振調・総合研究
  • 研究期間 :平成8年度(平成7~9年度)
  • 発表論文等:Immunomagnetic isolation of mouse embryonic stem cells
                      from heterogeneous cell population.Theriogenology,47,p242(1997)