XYfemaleタイプの性腺発育不全症のウシのY染色体の特徴

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要約

性腺発育不全症のウシのY染色体は長腕が欠失し短腕が重複する構造異常を示し,また,精巣決定遺伝子が欠失していた。これらの異常なY染色体を正常のY染色体とPCR-SSCP法で比較したところ,Y染色体特異的反復配列はY染色体の短腕と長腕とでその分子種が異なっていた。

  • 担当:畜産試験場 繁殖部 生殖細胞研究室
  • 連絡先:0287-38-8635
  • 部会名:畜産
  • 専門:繁殖
  • 対象:乳用牛・肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

性分化異常個体の染色体を検査してみると,Y染色体の数的ないしは構造的異常が見つ かる。最近発見された3頭の繁殖障害雌牛は細胞遺伝学的には雄であるが形成不全といえ 腟,子宮や卵巣を持ち,XYfemaleタイプの性分化異常個体に分類される。これらの症例牛のY染色体の特徴を明らかにすることは繁殖障害の一因の解明 に役立つだけでなく,正常なY染色体の構造や役割についての新たな情報が得られる可能性がある。そこでこれら症例牛のY染色体について,分染法やFlSH 法,PCR法による解析を行なった。

成果の内容・特徴

  • 症例牛(ジャージー種,黒毛和種,ホルスタイン種各1頭)のY染色体は3頭とも同 ータイプの構造異常(長腕の欠損と短腕の重複)を示した(図1)はその分染像である。
  • X染色体とY染色体短腕にあるアメロゲニン遺伝子およびY染色体長腕にある精巣決 定遺伝子SRYを同時に検出するPCR実験において,症例牛の父親牛がSRYを保有し ているのに対し症例牛は同遺伝子を欠失していた。また,Y染色体短腕の重複によりY染 色体のアメロゲニン遺伝子のPCR増幅産物の量は倍化していた(図2)上段。
  • Y染色体長腕全域と短腕のセントロメア近傍にマッブされる反復配列BTlGA50 MのPCR増幅産物の量はY染色体の構造異常を反映し症例牛からは少なかった(図2)中段。また,PCR一SSCP法で質的な比較を行ったところ,正常雄ウシの個体間あるいは症例牛の個体間では品種が異なるにもかかわらず差が認められなかったのに対し、長腕を欠く症例牛と正常Y染色体を持つ父親牛との間で明確な差が認められた(図2)下段。 この成績はY染色体の長腕と短腕とでこの配列の分子種が異なることを示唆している。

成果の活用面・留意点

  • 図2に示したPCR法による実験系はY染色体の構造異常に原因する繁殖障害雌牛 の臨床診断に役立つものと考えられる。
  • 特性の明らかとなったこれらの症例牛の細胞は研究素材として凍結保存されている。

具体的データ

図1 正常なウシY染色体(左)と構造異常のY染色体(右)

図2 PCR法によるY染色体異常の診断

その他

  • 研究課題名:性腺発育不全症のウシのY染色体の構造解析
  • 予算区分:経常
  • 研究期間 :平成8年度
  • 発表論文等:Deletion of the SRY region on the Y chromosome detected
                      in bovine gonadal hypoplasia(XY female)by PCR
                      Cytogenet.Ce11 Genetics,72p183-184(1996)