消化管通過速度指標物質としての希土類元素の放射化分析

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要約

飼料の消化管通過速度測定のための指標物質である希土類元素は,放射化分析法により非破壊的に測定できる。さらに,複数の元素を同時測定できることから,反芻家畜の消化の研究や飼料特性の解明などに応用できる。

  • 担当:畜産試験場 生理部 生態機構研究室
  • 連絡先:0287-38-8646
  • 部会名:畜産
  • 専門:動物栄養
  • 対象:乳用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

飼料の消化管通過速度測定の指標物質として希土類元素の利用がなされており,測定はおもに原子吸光法や発光分析法て行われている。しかしながら,これら の方法は破壊的分析法であり分析試料の調製が煩雑であるとともに,分析する元素の損失や混入が避けられない。それに対し,放射化分析法は非破壊的分析法て ある上、複数の元素を同時に測定できることから,飼料の消化管通過速度の測定には有用であると考えられるが,実際の測定例・技術的知見は限られている。本 研究では希土類元素を放射化分析法により測定し,消化管通過速度測定に応用するための基礎的データの収集を目的とした。

成果の内容・特徴

  • 希土類元素であるランタン,サマリウム,イッテルビウムの標準液を濾紙にスポッ トした標準物質に中性子照射を行い,生じた放射性同位元素のγ線を波高分析器で解析し た。その結果,3元素は個別のピークとして分離され,個々のピークのγ線量からランタ ンとサマリウムは0~20μgの範囲で,イッテルビウムは0~50μg範囲で同時測定が可能てあった。なお,このときの中性子照射量は5.0×1013n‐cm-2.sec‐1で3分間,γ線の計測時間は100秒であった(図1)。
  • 標準物質と,希土類元素を含まない牛糞試料とを同時に中性子照射して糞中の他元 素の影響を調査したところ,他元素(おもにナトリウム)の影響が消失するのは照射約30時間後であった。したがって,30時間以内に測定する場合には標準物質に希土類元素を含まない牛糞試料を添加して検量線を作成する必要があることが明らかとなった(図2)。
  • 浸漬法によりイッテルビウム(0.5g)で標識した乾草を含む飼料を牛3頭(平均体重195kg)に給与して経時的に糞を採取した。糞試料を乾燥・粉砕後,元素量を放射化分析法で測定し,その濃度から通過速度パラメータが求められた(表1)。

成果の活用面・留意点

  • この方法は消化管通過速度の測定のみならず、例えばTMR中の構成単味飼料を個別に標識すれば消化特性を同時に調査することにも応用できる。
  • 中性子照射施設を有する機関との協力・共同研究が必要である。

具体的データ

図1

図2

表1

その他

  • 研究課題名:畜産研究における原子炉高度利用新技術の開発と利用拡大
  • 予算区分:原子力・経常
  • 研究期間 :平成8年度(平成5年~10年度)
  • 発表論文等:消化管通過速度測定に用いる希土類元素の放射化分析と通過速度の測定
                      日本畜産学会報,67,p787-793(1996)