β-ラクトグロブリン部分ペプチドの経口投与による,マウスにおける免疫寛容の誘導

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要約

マウスに牛乳β-ラクトグロブリンのT細胞認識エピトープに相当する部分ペプチドを投与することにより,経口免疫寛容現象を引き起こし,β-ラクトグロブリンに対する免疫応答を抑制することができた。とくに,139-154残基目に相当するペプチドは顕著な免疫応答抑制効果を示した。

  • 担当:畜産試験場 加工部 畜産物機能開発研究室
  • 連絡先:0287-38-8687
  • 部会名:畜産
  • 専門:加工利用
  • 対象:乳用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

食物は、本来ヒトにとって異物であっても、生体に傷書を与える免疫反応は通常引き起 こさない。それは消化管に経口免疫寛容機構があり、過度の免疫反応か抑制されているためと考えられている。しかし、食物アレルギーの場合には、十分その機 能か働かないと推測され、アレルゲンにさらすことなくアレルゲンに対する免疫寛容を誘導できれば、最も優れたアレルギーの予防法となると思われる。そこで 本研究では、マウス実験系で、これまで明らかにしてきた牛乳β-ラクトグロブリンの主要T細胞認識エピトープ領域に相当する3種の部分ペプチドを経口投与 し、その中からもとのタンパク質であるβ一ラクトグロブリンに対する免疫応答を抑制するペプチドを検索することを目的とした。

成果の内容・特徴

  • β-ラクトグロブリンの42-56、62-76及び139-154残基目に相当 する主要T細胞認識領域ペブチドは、β-ラクトグロブリン免疫に先立つ経口投与により、 いずれも顕著にβ-ラクトグロブリンに対するT細胞増殖応答を抑制した(図1)。
  • β-ラクトグロブリンの139-154残基目に相当する主要T細胞認識領域ペプ チドは、β-ラクトグロブリン免疫に先立つ経口投与により、β-ラクトグロブリンに対 する抗体産生応答を顕著に抑制した(図2)。このとき、産生抗体のサブクラス分析結果(表1)によれば、ヘルパーT細胞はTh1、Th2タイプともに抑制されていると推定された。
  • 以上のことから、β-ラクトグロブリンの139-154残基目に相当する部分ぺプチドは、経口投与により、β-ラクトグロブリンに対する免疫寛容を有効に誘導できることが明らかになった。

成果の活用面・留意点

T細胞認識エピトープペプチドを経口投与することにより、もとのタンパク質に対する 免疫応答を顕著に抑制できることを示した。従って、この技術はヒト食物アレルギーの予 防・治療にも応用可能である。ただし、β-ラクトグロブリンをはじめとして、各種食物 アレルゲンタンパク質について、患者認識T細胞エピトープを解明することが今後の問題 として残されている。また、他のアレルゲンやヒトでの応用を考えるとき、一つのタンパ ク質に複数ある主要T細胞認識エピトープペプチドが、本研究のように同等な効果を示す とは限らないこと、ペブチドの組み合わせによる協同・相乗作用の可能性や、効果的な投 与量にも留意する必要がある。

具体的データ

図1 β-ラクトグロブリン主要T細胞エピトープペプチド経口投与がβ-ラクトグロブリンに対するT細胞増殖応答に及ぼす効果

図2 β-ラクトグロブリン主要T細胞エピトープペプチドを経口投与がβ-ラクトグロブリンに対する抗体産生応答に及ぼす効果

表1 β-ラクトグロブリン主要T細胞エピトープペプチド経口投与による抗体産生応答抑制効果

その他

  • 研究課題名:1.牛乳タンパク質に内在する免疫応答抑制細胞誘導因子の解明
  • 2.食物タンパク質に対する過剰免疫応答抑制方法の開発
  • 予算区分:1.一般別枠(健康機能)2.経常
  • 研究期間:平成8年度(1.平成5~10年度,2.平成8~10年度)
  • 発表論文等:1)水町ら:マウスに経口投与した、β‐ラクトグロブリンT細胞エピトープ
                        ペプチドの免疫応答抑制効果.1996年度日農化大会講要,p186(1996.3)
                      2)Kurisaki,J.et al.Immunosuppressive effects of epitope peptides
                         of β-lactog1obulin ora11y administered to mice,Proc.8th AAAP
                         Animal Sci.Congr.,vo1.2,p320-321(1996)
                      3)Mizumachi,K.,et al.:Oral tolerance induced in mice by T ce11
                         epitope peptides of β-lactoglobulin. 9th lntern.Congr.Mucosal
                         Immunol.(1997.1)
                      4)水町ら:β-ラクトグロブリンT細胞エピトープペプチド139-154による経ロ
                        免疫寛容の誘導.1997年度日農化大会(1997.4)
                      5)Mizumachi,K.,et al: Suppression of immune response to
                        β-lactoglobulin by oral administration of major T cell epitope
                         peptides in mice.16th Intern.Congr.Nutr.(1997.7)