クエン酸からエネルギーを獲得できる乳酸菌

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

チーズスターターの中から糖存在下でクエン酸からエネルギーを獲得できる乳酸菌を分離した。この菌はLactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactisであり,クエン酸代謝におけるエネルギー生成反応には脱炭酸反応が関与していると思われた。

  • 担当:畜産試験場 加工部 微生物利用研究室・上席研究官
  • 連絡先:0287-38-8685
  • 部会名:畜産
  • 専門:加工利用
  • 対象:細菌
  • 分類:研究

背景・ねらい

一部の乳酸菌はクエン酸(Cit)から二酸化炭素やジアセチル、酢酸など各種乳製品の フレーバーとして重要な物質を生成する。市販のチーズスターターから分離したグラム陰 性菌選択培地であるクリスタルバイオレット(CVT)寒天上にコロニーを形成する乳酸菌(CVT菌)は、スターターとして用いると軟質のチーズを生成し、 またCitを分解し、菌体重量が数倍にも増加するなどこれまでに知られている乳酸菌とはかなり異なった性質を有している。本研究ではこの乳酸菌の分類学的 位置とそのクエン酸代謝機構について解析することを目的とした。

成果の内容・特徴

  • 当研究室で保有しているCVT菌はグルコースからL‐型の乳酸を生成し、Cit分解能を有し、さらにtype strainである方Lactcoccus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis ATCC 13675とDNA‐DNAハイブリダイゼーションで80-100%の相同値を示したことから、13675と同種菌株である。
  • Cit分解能の有無にかかわらず、試験に供した方Lactococcus属6株はCit添加量に伴い、菌体重量(図1)、糖消費量が増加した。しかし分子増殖収率[YG(g mole-1)=菌体重量/糖消費量]は、CVT菌であるCVT3、8W株でのみCit添加時に高く なった。これはCVT菌は他のLactococcus属の菌株と異なり、糖からだけでなく、Citからもエネルギーを得ることが出来ることを意味していた(表1)。
  • 8W株のYG はリンゴ酸(Mal)添加でも高くなったことから、CVT菌はMaIの脱炭酸反応(マロラクティック発酵)でエネルギーを獲得していることが明らかとなった(表2)。
  • 8W株のCit代謝では脱炭酸反応はオキザロ酢酸(0xa)からピルビン酸(Pyr)、Pyrからアセトインまたはジアセチルが生成する経路のニケ所で行われる(図2)。8W株を0xa、Pyrを添加した培地で培養すると、Pyrの脱炭酸反応でYGは無添加の場合と変わらなかった(表2)。 従ってCVT菌はもう一つの脱炭酸反応系である0xaからPyrへの反応によって工ネルギーを獲得していると考えられたが、0xaを培地に添加した場合は 菌の生育が抑制されるため、実証できなかった。また同じbiovar diacetylactisに属するN-7ではいずれの有機酸の脱炭酸反応においてもYGは高くならなかったことから、Cit、Malからのエネルギー獲 得は、CVT耐性などと共にこの乳酸菌の特異性の一つである。

成果の活用面・留意点

CVT菌を分離する際に使用するCVTアガーには、CVTを1ppm合有する市販品を用いる。

具体的データ

図1 Lactcoccus属の増殖に及ぼすクエン酸添加の影響

表1 Lactcoccus属の分子増殖収率に及ぼすクエン酸添加の影響

表2 ジアセチラクチス株における有機酸脱炭酸反応によるエネルギー生成

図2 8Wのクエン酸代謝経路

その他

  • 研究課題名:Lactcoccus lactis sp.CVTのクエン酸代謝機構の解明
  • 子算区分:経常
  • 研究期間:平成8年度(平成6~8年度)
  • 研究担当者:本元広実,野村 将,鈴木一郎-->
  • 発表論文等:1)Lactcoccus lactis sp.CVTのクエン酸代謝について
                          第90回日本畜産学会大会(1995)
                      2)Lac.lactis 8W株のクエン酸代謝の特徴
                         日本農芸化学会1995年度大会(1995)