核移植によるクローン牛のミトコンドリアDNAはレシビエント卵子由来である

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要約

クローン牛作出のため構築された核移植胚では、ドナー細胞とレシピエント卵子の両方に由来するミトコンドリアDNA(mtDNA)が混在するが、ドナー細胞由来のmtDNAは発生初期に消失し、産子ではレシピエント卵子のmtDNAで占められる。

  • 担当:畜産試験場育種部育種素材開発研究室・繁殖部生殖工学研究室
  • 連絡先:0298-38-8624、0298-38-7382
  • 部会名:畜産
  • 専門:育種・繁殖
  • 対象:肉用牛  乳用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

ミトコンドリアDNA(mtDNA)は、ミトコンドリア内に存在し、エネルギーを生産する電子伝達系に必要なタンパク質をコードしている遺伝子群から構成されている。核移植胚は核を持つ割球(ドナー細胞)と、除核した細胞質(レンピエント卵子)を融合して作出されるため、両者に由来するmtDNAが混じり合った状態となる。本研究では、核移植後のmt DNAの動態を牛の核移植胚および産子で検討することを目的とした。

成果の内容・特徴

  • PCR-SSCP(一本鎖高次構造多型)解析法により、融合直後の核移植胚には、ドナー細胞およびレシピエント卵子の両方に由来するmtDNAが検出された。ドナー細胞由来のmtDNAは、胚の発育に伴って減少し、胚盤胞期胚では僅かに検出されるのみとなった(図1)。
  • mtDNAのタイプが明らかなドナー細胞とレンピエント卵子から作出されたクローン産子6例(3つ子2組)の血液または各組織のmtDNAを調べた結果、すべての産子はレシピエント卵子を採取した卵巣と同じmtDNAのタイプを示し、ドナー細胞由来のmtDNAは検出されなかった(図2)。
  • 以上のことから、融合直後の核移植胚に存在するドナー細胞由来のmtDNAは発生初期に消失するため、産子ではレシピエント卵子に由来するmtDNAのみになると考えられた。由来の異なるレシピエント卵子を用いたクローン産子の遺伝子構成はmtDNAにおいて異なっていることが示された。

成果の活用面・留意点

  • 核移植技術を用いることにより、mtDNAの違いあるいは異なった品種間の核ゲノムとmtDNAとの相互作用が個体形質に及ぼす影響をより正確に捉える実験系が構築できる。
  • mtDNAの違いが個体の形質に及ぼす影響を明らかにすることにより、レンピエント卵子を選別してよりよい牛を生産することができる。

具体的データ

図1.核移植胚の初期発生過程におけるレンピエント卵子およびドナー細胞に由来するmtDNAの消長 図2.核移植によるクローン産子3つ子(1-3)とレシピエント側卵巣あるいはドナー側供胚牛間とのmtDNAタイプの比較

その他

  • 研究課題名:牛クローン胚における外来ミトコンドリアDNAの動態および伝達様式に関する研究
  • 予算区分:経常 (共同交流)
  • 研究期間:平成9年度(平成8~10年度)
  • 発表論文等 :
    1)Dominant distribution of mitochondrial DNA from recipient oocyte in the bovine embryos and offspring after nuclear transfer.Biology of Reproduction,Vol.56,Suppl.1 P105,(1997)
    2)黒毛和種・褐毛和種・ホルスタイン種における、ウシミトコンドリアDNA・D-loop 領域内変異.日畜会報 68(12) l161-1165 (1997)