異種ミトコンドリアをもつ近交系マウス間で認められた表現形質の差

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要約

近交系マウス(B6)とそれと同一の核ゲノムを持ちミトコンドリアが異なるコンジェニックマウス(B6-mtSpr)間で、体重、運動性あるいは旺発生等 の表現形質に対するミトコンドリアの影響について検討した。いずれの形質においても両系統マウス間で有意な差が認められ、この差は異なったミトコンドリア が関与していることが示唆された。

  • 担当:畜産試験場 繁殖部 生殖工学研究室
  • 連絡先:0298-38-7382
  • 部会名:畜産
  • 専門:繁殖・育種
  • 対象:実験動物
  • 分類:研究

背景・ねらい

これまで、個体の表現形質を支配しているのは核内のゲノムにあるとする考え方が一般的であり、多くの場合この原則があてはまる。しかし、ミトコンドリア内にも固有のゲノムがあり、その遺伝子発現は核ゲノムによって調節されていることから、核とミトコンドリア間である種の相互作用があり、それが細胞のエネルギー生産のみならず、結果として個体の表現形質に影響を及ぼす可能性がある。そこで近年確立されたミトコンドリアコンジェニックマウスを用いて、核ゲノムは同一でありながらミトコンドリア(mt)が異なる近交系マウスとの間で胚発生、成長、運動能力などの表現形質に及ぼす異種ミトコンドリアの影響について検討した。

成果の内容・特徴

  • 本研究では、近交系マウスとしてC57BL/6j(B6) (mtタイプ=Mm.domesticus)およびミトコンドリアコンジェニックマウスとしてM.spretusマウス(mtタイプ=m.sp- retus)雌にB6雄を20代以上戻し交配させて樹立した系統(B6-mtsprを用いた。
  • それぞれの系統のマウス(3~15週齢)について、成長性(体重)および運動性について検討した。9週齢以前の体重には有意な差は認められなかったが、それ以降はコンジェエック系統(B6-mtspr)のマウスの体重は近交系マウス(B6)に優っていた(図1)。これとは逆に、運動性では(10および15週齢)B6がB6-mtsprに比べて有意に高かった(図2)。
  • それぞれの系統の3~4週齢幼若雌マウスに過剰排卵処理後交配し、交配2日後の回収胚を体外で培養し、胚盤胞期までの膝発生速度および発生率、さらに胚発生における培養時の酸素濃度の影響について検討したところ、体外での胚発生能はB6マウス由来の胚が高率に発生するのに対し、B6-mtSpr由来の胚は発生速度が低下するとともに、胚発生率の低下が認められた。しかし、この胚発生低下は培養中の酸素濃度を低下させることによって可逆的に代償された(表1)。
  • 以上のことから、B6由来の核ゲノムを持つマウスではミトコンドリアゲノムの違いにより、細胞レベルおよび個体レベルで表現形質に差が生じることが明らかになった。

成果の活用面・留意点

  • 核とミトコンドリアとの相互関係を解明するためのモデル実験系として利用できる。
  • クローン家畜において、未受精卵由来のミトコンドリアと表現形質との関連に留意する必要がある。

具体的データ

図1.近交胚およびミトコンドリアコンジェニックマウス間での成長度の差異 図2.近交計およびミトコンドリアコンジェニックマウス間での運動能力の差異

表1.近交系およびミトコンドリアコンジェニックマウス由来胚の体外での発生能

その他

  • 研究課題名:ミトコンドリアコンジェエックマウスを用いたミトコンドリア機能解析系の開発に関する研究
  • 予算区分:短期重点研究
  • 研究期間:平成9年度(平成9年度)
  • 発表論文等:
    1) Heterogeneous mitochondria DNA introduced by nuclear transfer influence the developmental ability of mouse embryos in vitro.Theriogenolgy 47 P233(1997).
    2) Decreased physical performance of congenic mice with mismach between the nuclear and the mitochondorial genome.Gene Gent.System 73 13-19(1998)
    3)  Effect of different type of mitochondrial DNA on preimplantation embryonic development in the mouse. J. Reprod. Dev. 44 in press (1998)