泌乳牛のグルコース利用におけるソマトトロピン軸の役割

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

泌乳中、乳牛はソマトトロピン軸(視床下部から乳腺にいたる成長ホルモンの制御系)を介して、乳腺以外の組織でのインシュリンによるグルコースの取り込みを抑制し、グルコースを優先的に乳腺に配分して乳量を増加させる。この作用は、泌乳前期と中・後期で異なる。

  • 担当:畜産試験場 生理部 生理活性物質研究室
  • 連絡先:0298-38-8645
  • 部会名:畜産
  • 専門:生理
  • 対象:乳用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

乳牛の泌乳において成長ホルモン(GH、ソマトトロピン)が最も重要な生理活性物質であることが明らかにされ、バイオテクノロジーの技術革新と相まって、GHの酪農分野における応用研究が数多くなされてきた。GHによる増乳効果には、視床下部の成長ホルモン放出因子から乳腺にいたるソマトトロピン軸の関与が想定されているが、未だに不明な部分が多い。 実験には、成長ホルモン放出因子(GRF)・成長ホルモン抑制因子(GIF、ソマトスタチン)・GHの頸静脈内連続投与、ユーグリセミック・インシュリン・クランプ法、安定同位体で標識した[6,6-2H2]グルコースによる同位元素希釈法等の新しい手法を用いた。本実験から泌乳牛のソマトトロピン軸の制御、インシュリンの作用、グルコースの体内での生産量と代謝量の関連性に関していくつかの新しい知見を得た。

成果の内容・特徴

  • GRF注入による泌乳牛の血液中の代謝産物、GH、インシュリン様成長因子(IGF-I)、インシュリンなどの経時変化から、泌乳時の炭水化物、脂質および窒素代謝にはGRF、GIF、GH、IGF-Iなどのホルモンを介するソマトトロピン軸が関与していることを確認した。
  • 泌乳中・後期の乳牛におけるインシュリン抵抗性はGRFやGHの注入で増加し、泌乳前期ではその効果は観察できなかった。泌乳中・後期のインシュリン抵抗性の増加には、GH、IGF-Iの上昇と関連した。泌乳前期の泌乳最盛期には、グルコースの配分が最もダイナミックに動くため、GHの効果が観察されなかったものと思われる。
  • 泌乳中・後期の乳牛において、インシュリン依存性のグルコースの消費量は、体内で消費される全グルコース量のわずか10~15%にすぎない。このことは、インシュリン非依存性のグルコース消費を行う代表的組織である乳腺において、多くのグルコースが使われていることを示唆する(図1)。
  • 泌乳牛にGHを投与するとインシュリン依存性の組織へのグルコースの取り込みが抑制され、乳腺に配分されるグルコースの量が増加する。また、GH投与は泌乳基質確保のため、インシュリン非依存性のグルコースの取り込みも増強する可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

アメリカ合衆国等において、GHの製品が酪農現場で使用されているが、日本での使用は認められていない。泌乳に対するGHの効果には、泌乳時期、栄養状態、個体能力等の要因が影響する。

具体的データ

図.泌乳牛におけるGB投与時のグルコース消費パターンの変化

その他

  • 研究課題名:Somatotropic axisによる泌乳制御技術の開発
  • 予算区分:大型別枠[生物情報]
  • 研究期間:平成9年度(平成5年~9年度)
  • 発表論文等:
    1) Effect of growth hormone  on the response to insulin and glucose turnover in sheep. J. Agric. Sci. Camb. 126 107-115 (1996)
    2) Effect of growth hormone-releasing factor on the response to insulin of cows during early and late lactation. J. Dairy Sci. 79 1734-1745 (1996)
    3) Growth hormone does not affect non-insulin-mediated glucose uptake in sheep. Exp. Physiol. 82 749-760 (1997)
    4) Non-insulin- and insulin-mediated glucose uptake in dairy cows.J. Dairy Res. 64 341-353 (1997)
    5) Role of the somatotropic axis on insulin mediated and non-insulin mediatedglucose uptake in lactating cows. Rumen microbes and Digestive Physiology in Ruminants. Edited by Onodera, R., H. Itabashi, K. Ushida,Y. Yano, and Y. Sasaki. 231-240 (1997)
    6) Effects of  growth hormone on non-insulin mediated glucose disposal in dairy cows. J. Dairy Res., in press.