超音波センサーによる山羊の妊娠子宮における血流量の測定法

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要約

妊娠105日前後の山羊を用いて,中子宮動脈への超音波血流量センサー装着手法を開発した。本技術と既存のカテーテル装着技術を併用することにより,妊娠子宮の栄養出納を定量的に把握することが可能となる。

  • 担当:畜産試験場 栄養部 反すう家畜代謝研究室
  • 連絡先:0298-38-8655
  • 部会名:畜産
  • 専門:動物栄養
  • 対象:山羊
  • 分類:研究

背景・ねらい

妊娠末期の反芻家畜は,飼料摂取量の減少や胎子の著しい成長により,栄養不足に陥りやすい。その場合,母畜は、体組織を動員して胎子の生育に必要な量の養分を供給するものと思われる。そのため,分娩前の飼養状態によって,分娩時の母畜の体調が変動し,その後の乳量や繁殖成績に大きく影響するものと考えられる。母体と妊娠子宮との栄養素の体内配分を定量的に把握し,給与飼料がどの程度母体に蓄積されるのかを解明することは,妊娠末期の適切な飼養技術を開発し,泌乳初期乳量の向上や繁殖成績の改善に資することとなる。そこで本研究では,山羊の妊娠子宮における養分出納について定量的に測定する手法を開発した。

成果の内容・特徴

5頭のザ-ネン種妊娠山羊(平均体重39.7kg,妊娠期間約150日)を用いて,母山羊の維持要求量に胎子1頭の妊娠に要する分を増給した飼料を給与して代謝試験を実施した。試験飼料の給与は,妊娠約100日目からイタリアンライグラス2番草乾草を,1日1回給与した。

  • 妊娠105日前後に頸動脈及び中子宮静脈へのカニュ-レ装着及び中子宮動脈への超音波血流量センサー(Transonic Systems Inc.)装着手術を行った(図1)。本センサーは,超音波トランジットタイム法によって,血管径の大きさに関係なく,無侵襲で長期間正確な血流量を測定できる特徴を有している。また,製造最終検査の校正値が各センサープローブ内部に記憶されているため,測定前後のゼロ校正が不要である。
  • 手術の要点と注意事項を図1に示した。なお,カテーテルに関しては,挿入時における血流停止時間を短縮するため,血管壁は留置針で穴を開け,イントロデューサーを用いて速やかに行った。
  • 妊娠111日目において,飼料給与から3時間毎に採血を24時間行い,同時に血流量を1分毎に測定した(図2)。その結果,血流量は日内変動が大きく,正確な流量測定のためには本技術による連続測定の実施が重要であることが示された。また,子宮への栄養素の取り込み量を血漿中濃度と血流量から算出すると,グルコースは1日で14.9gであり,遊離脂肪酸は26.3mEqであった。

成果の活用面・留意点

本手法は,子宮のみならず,肝臓や乳房等の各種臓器における血流量の長期間にわたる詳細な変動や定量的な測定に活用できる。

具体的データ

図1.中子宮動脈センサー装着手術手順

図2.中子宮動脈血流量の連続測定例

その他

  • 研究課題名:胎子に対する養分供給を支配する内分泌要因の解明
  • 予算区分:総合的開発[繁殖技術]・経常
  • 研究期間:平成9年度(平成7年~9年度)
  • 発表論文等:山羊の妊娠末期における子宮での栄養素出納について. 第94回日本畜産学会講演要旨 P65 (1998)