エンドファイトに感染したトールフェスク種子でのヒラタコクヌストモドキの増殖抑制

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要約

トールフェスク種子を餌として貯穀害虫ヒラタコクヌストモドキの飼育をし、エンドフ ァイト感染品種と非感染品種とで10週後の虫の増殖数を比較したところ、感染品種での増 殖数は有意に低く、エンドファイト感染種子が虫の増殖を抑制することを明らかにした。

  • 担当:草地試験場・環境部・害虫制御研究室
  • 連絡先:0287-37-7557
  • 部会名:生 産 管 理
  • 専門:作物虫害
  • 対象:牧草類
  • 分類:研究

背景・ねらい

エンドファイト(植物体内に共生する微生物の総称;ここでは Neotyphodium 属の糸状菌を対象とした)は近年生物的防除手段として大変脚光を浴びてきた。しかし、エンドファイトの耐虫性に関する研究はこれまで主に海外で実施されてきており、我が国においては始まったばかりである。そこで、日本においてもエンドファイト感染植物が耐虫性を示す昆虫を検索し、その機構を解明する必要がある。海外ではエンドファイト感染植物が作 るアルカロイドのいくつかが数種の害虫に対して効果があることが報告されており、またエンドファイトの種類と植物の種類の組み合わせが変われば生産されるアルカロイドの種類が変わることも知られている。

成果の内容・特徴

  • エンドファイト感染トールフェスク3品種種子、非感染トールフェスク3品種種子を餌として、種子を食う貯穀害虫ヒラタコクヌストモドキ(図1; 体長3~4 mm)を飼育し、その増殖個体数を比較した。感染品種と非感染品種の2つのグループに分けて構造化分散分析をしたところ、感染品種は非感染品種に比べて増殖数が少なかった(表1; P<0.001)。同様に、ペレニアルライグラスについて2品種のエンドファイト感染種子、3品種の非感染種子を用いて本害虫の増殖数を比較したところ、感染品種と非感染品種の増殖数には有意な差はなかった(表2)。
  • これらの結果から、エンドファイトに感染したトールフェスク種子ではヒラタコクヌストモドキの増殖は低く抑えられたと考えられるが、ペレニアルライグラス種子では本種の増殖はエンドファイトの感染が影響しないと考えられる。トールフェスク種子には Neotyphodium coenophialum が、ペレニアルライグラス種子には N. lolii が感染しており、ヒラタコクヌストモドキはトールフェスク種子では生産されるが、一方ペレニアルライグラス種子では生産されないアルカロイドに影響を受けた可能性を示唆している。

成果の活用面・留意点

  • エンドファイト感染トールフェスク種子がヒラタコクヌストモドキの増殖をどのような機構で抑制しているのかは現時点では不明である。
  • 貯穀害虫は他の害虫に比較して飼育が容易で実験的に扱いやすいので、今後どのよう な種類のアルカロイドがどのような過程で作用するのかを一般的にモニターするのに有効 な昆虫種だと考えられる。

具体的データ

図1.ヒラタコクヌストモドキ成虫

表1.トールフェスク種子でのヒラタコクヌストモドキの増殖

表2.ペレニアルライグラス種子でのヒラタコクヌストモドキの増殖

その他

  • 研究課題名:新形質付与のためのエンドファイトの機能解明 -耐虫性機能の解明-
  • 予算区分 :フロンティア(エンドファイト)
  • 研究期間 :平9年度(平成8~10年)
  • 研究担当者:吉松慎一・有村一弘(現九州農試)・島貫忠幸
  • 発表論文等:日本昆虫学会第57回大会講演要旨集 p. 33 (1997年10月)