アーバスキュラー(VA)菌根菌共生系における宿主―共生菌間物質交換機構

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要約

植物根内に共生するアーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌と呼ばれることも多い) の菌糸を、代謝活性を低下させずに分離する方法を開発した。この方法を活用して 共生状態にある菌糸が主にグルコースを炭素源として利用すること、また、菌から 宿主植物へのリン供給はポリリン酸から糖リン酸エステルへのリン酸転移とその加 水分解を経て行われる可能性の高いことを明らかにした。

  • 担当:草地試験場・生態部・土壌微生物研究室
  • 連絡先:0287-37-7227
  • 部会名:生産管理
  • 専門:土壌、バイテク
  • 対象:微生物
  • 分類:研究

背景・ねらい

糸状菌の1種であるアーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌と呼ばれることも多い)は、植物の根に共生し宿主である植物のリン栄養を改善する作用などによって植物の生育を促進する作用がある。本菌類の機能を草地生産の場で活用することができれば、肥料成分等の節減が期待できる。しかし、本共生系における宿主―共生菌間の物質交換の生化学的機構はほとんど解明されていない。一連の研究の結果、その一端を明らかにすることができた。

成果の内容・特徴

  • アーバスキュラー菌根菌と宿主植物の共生機構を研究するために、根の中に共生している菌根菌の菌糸の活性を低下させずに分離する手法を開発し、共生状態にある菌糸の酵素活性の発現状況が単生(非共生)状態のそれとは異なっていることを明らかにした(図1A,B:発表論文1)。
  • 共生状態にある内生菌糸(根の中に共生する菌糸)において特異的に発現するホスファターゼを見いだし、この酵素の特性の一端を解明した。この酵素は菌から植物へのリン供給に重要な役割を果たしているものと推定された(図1C,D:発表論文2,5)。
  • 内生菌糸においてポリリン酸ホスファターゼ活性はきわめて低く、また、ポリリン酸ヘキソキナーゼ活性が高かった。さらに、共生特異的ホスファターゼはグルコース6リン酸に対して基質特異性が高かった。これらのことから、アーバスキュラー菌根菌から宿主植物へのリンの供給は、ポリリン酸からグルコース6リン酸などの糖リン酸エステルにリン酸が転移し、それが加水分解されて無機リン酸となって供給されると推測される(図2:発表論文4,6)。
  • 植物から菌への炭素化合物供給について、根から分離した内生菌糸による炭素化合物代謝能を14C-トレーサー法で解析し、菌は主にグルコースを利用していることを明らかにした(図2:発表論文3)。

成果の活用面・留意点

  • アーバスキュラー(VA)菌根菌と宿主植物との共生に関する基礎的的情報である。

具体的データ

図1.菌根菌感染根内に増殖するVA菌根菌菌糸の分離とその酵素活性.

図2.アーバスキュラー菌根共生系における物質交換機構模式図

その他

  • 研究課題名:リン酸によるVA菌根共生阻害機構
  • 予算区分:大型別枠(生物情報)
  • 研究期間:平成6~9年
  • 研究担当者:斎藤雅典、小島知子、(早津雅仁)、M.Z.Solaiman、(江沢辰広、安田光弘)
  • 発表論文等:
    1)New Phytologists 129:425-431(1995)、
    2) Plant Soil 176:57-63 (1995)、
    3) New Phytologists 136:533-538 (1997)、
    4) JARQ 31:179-183 (1997)、
    5) Biol.Fert.Soils(印刷中)、
    6) Mycologia(投稿中)