第一胃内消化速度の異なる飼料給与時の消化可能な乾物排泄量の比較

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要約

泌乳牛は維持の3~4倍もの飼料を摂取するので、第一胃での飼料の滞留時間が短く なって消化率が低下する。しかし、第一胃内消化速度の速い飼料を給与すると、消化速度の 遅い飼料に比べて飼料摂取量増加に伴う消化率低下が少なく、潜在的に消化可能な乾物の糞 への排泄量を抑制できる。

  • 担当:草地試験場・飼料生産利用部・乳牛飼養研究室
  • 連絡先:0287-37-7806
  • 部会名:飼料利用
  • 専門:飼育管理、動物栄養
  • 対象:乳用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

わが国の畜産業では、経営の大型化に伴う糞尿処理問題が深刻である。糞尿処理問題の解決には、家畜の排泄量を低減することが重要である。乳牛の消化率は飼料摂取量の増加とともに低下するので、高泌乳牛のように飼料を維持量の3から4倍も摂取する牛では、潜在的に消化可能であるが、消化されずに糞へ排泄される成分が多く、これが糞量を増やす一因になっている。飼料摂取量増加に伴う消化率低下は、摂取量増加によって飼料が第一胃で消化される時間が短くなるために生ずる。一方、飼料の第一胃内消化速度は一定ではなく、飼料によって異なる。そこで、第一胃内消化速度の違う飼料を給与した場合の潜在的に消化可能な乾物の排泄量を比較した。

成果の内容・特徴

イタリアンライグラス(IRG)とアルファルファ(AL)の乾草を粗飼料として用いて、栄養価のほぼ等しい2種類の飼料を調製した(表1)。ナイロンバッグ法で経時的に第一胃で消化して、時間(t)での消化率(p)をp=a+b(1-EXP(-ct))の式に当てはめて両飼料の高消化速度区分(a)、低消化速度区分(b)、b区分の消化速度定数(c)を測定した。次に、ホルスタイン種の乾乳牛(平均体重562kg)8頭と泌乳牛8頭(平均体重555kg、平均日乳量30.7kg)を供試し、各飼料を給与して消化試験を実施した。消化試験では、ランタンとセリウムをそれぞれ吸着した乾草と濃厚飼料を指示物質として用いて、飼料の第一胃内滞留時間も測定した。

  • ナイロンバッグ試験の結果は図1のようで、AL飼料がIRG飼料よりも高消化速度区分が多く、消化速度定数が大きく(p<0.10)、第一胃で消化される速度が速いと判断される。
  • 2種類の飼料とも、維持の3.6~3.8倍の水準で飼料を給与された泌乳牛の方が維持水準で給与された乾乳牛よりも第一胃内滞留時間が短く、乾物消化率が低い。この場合、消化率はIRG区の方が高く、消化率低下の大きさはAL飼料の方が小さい(表2)。
  • 泌乳牛での潜在的に消化可能な乾物の排泄量を算出すると、IRG飼料がAL飼料よりも多く、また、排泄率はAL飼料の方が小さい(表3)。
  • 以上の結果から、泌乳牛の飼料摂取量増加に伴う潜在的に消化可能な乾物の糞への排泄量は、第一胃内消化速度の速い飼料を給与する方が消化速度の遅い飼料を給与するよりも少ない。

成果の活用面・留意点

  • 糞排泄量を低減するための飼料設計の基礎的な知見として役立つ。
  • 飼料の第一胃内消化速度は測定方法によって異なることもある。利用に際して注意するとともに、統一された方法によるデータの蓄積が必要である。

具体的データ

表1.供試飼料の組成 図1.第一胃内消化パターンの比較

表2.乳牛による飼料摂取量の違いが飼料の第一胃内滞留時間と乾物消化率に及ぼす影響

表3.泌乳牛における潜在的に消化可能な乾物排泄量の比較

その他

  • 研究課題名:粗飼料の高度利用による乳牛の排泄物量軽減技術の開発
  • 予算区分  :総合的開発研究「家畜排泄物」
  • 研究期間  :(平成6~8年度)
  • 研究担当者:石田元彦、安藤 貞、押尾秀一
  • 発表論文等:Comparison of digestibility reduction by feed intake increase between lactating dairy cows fed grass-based diet and alfalfa-based diet. Proc. of the 8th
    AAAP Anim. Sci. Congress, Vol.2 : 164-165. 1996.