コンティンジェント評価法による島根県三瓶山地域の草原景観の経済的評価

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要約

コンティンジェント評価法(CVM)により、島根県三瓶山地域の草原景観の 経済的評価を行った結果、年間1人あたりの支払意志額(WTP)として、中央 値で\3,673、平均値で\6,486という値が得られた。年間観光客数70万人を掛け 合わせ、年額25億7千万円~45億4千万円の価値が存在すると推定された。

  • 担当:草地試験場・草地生産基盤部・立地計画研究室
  • 連絡先:0287-37-7246
  • 部会名:永年草地・放牧
  • 専門:農村計画
  • 分類:行政

背景・ねらい

島根県三瓶山地域は全山を覆い尽くす草原景観の美しさゆえ、昭和38(1963)年、大山隠岐国立公園に指定されたが、その後の農業構造の変化に伴う放牧頭数の減少の結果、草原は森林へと植生遷移し、往時の美観は失われつつある。一方で、近年、農業・農村が有する公益的機能を評価し、維持・増進する必要性が高まってきている。このような状況のもと、放牧によって醸し出された美しい草原景観の価値を、何らかの方法によって経済的に評価することが急務である。そこで、三瓶山への観光客に対してアンケートを行うことにより、草原景観を経済的に評価することを試みた。

成果の内容・特徴

  • 評価手法として、コンティンジェント評価法(CVM)を適用した。この方法は、草原が荒廃したと仮定して『草原保全基金』のようなものを創設した時、観光客に対して最大いくらまでなら支払う意志があるか尋ね(図1)、観光客の属性や意識をもとに支払意志額(WTP)の中央値・平均値を推定するものである。
  • アンケートでは、WTPを問う項目のほかにも、三瓶山への来訪回数や目的、今後の景観管理の方向性を問う項目などを設けた。また回答者の属性として、性別、年齢、居住地、年収についての質問を行った。アンケートは、雄大な草原景観が目の当たりにできる西の原駐車場付近において、調査員が調査票を回答者に手渡し、調査員の面前で回答者が自分で回答を記入する、面前記入法により行った。有効回答数は386(87.93%)であった。
  • WTPの推定は、ロジスティック回帰分析により、行った。この手法は、ある事象の生起の有無を表す2値変数を従属変数として、独立変数群で説明(あるいは予測)する場合に用いられる。ここではアンケートでの提示額に対して"Yes"と答えた場合に1を与え、"No"と答えた場合に0を与える変数を従属変数とし、提示額や観光客の属性、調査時期などを説明変数とした。有意でない変数をモデルからはずしてゆく『減少法』によって変数の選択を行い、AIC(赤池の情報量基準)がもっとも小さくなるモデルを採用した(式1)。
  • 推定の結果、年間1人あたりWTPの中央値(メディアン)で\3,673、平均値で\6,486という値が得られた(図2)。中央値は受諾率が0.5(50%)となる提示額として、また平均値は、グラフの下部の面積を求めることにより、算定することができる。
  • 草原景観の価値が算出される。ここでは中央値で年額約25億7千万円、平均値で年額約45億4千万円という値が得られた。

成果の活用面・留意点

  • 三瓶山への年間観光客数としては、70万人(平成5年値:社団法人日本観光協会『全国観光動向』)、70.5万人(平成7年値:『平成7年島根県統計書』)というデータがあり、調査を行った平成8・9年も約70万人で推移したものとして試算を行った。
  • 本成果を活用する際は、CVMによる推定値であることを明記する必要がある。

具体的データ

図1.支払意志額(WTP)についての質問

式1.ロジスティック回帰分析により、得られたモデル

図2.支払意志額(WTP)の中央値(メディアン)・平均値の推定

その他

  • 研究課題名:シバ型草原の多面的機能の評価
  • 予算区分:地域総合
  • 研究期間:平成9年度(平成5年~9年)
  • 研究担当者:小路 敦,須山哲男,佐々木寛幸
  • 発表論文等:草地学会誌に投稿予定。