ブタには優性阻害型(dominant-negative form)のJAK2 RNAが各組織に存在する

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要約

成長ホルモン,プロラクチン及び一部のサイトカインは,標的細胞で細胞内情報伝達分子であるJAK2を活性化する。ブタではヒト・マウスには知られていない異型のJAK2RNAが各組織に存在している。

  • 担当:畜産試験場 育種部 家畜ゲノム研究チーム
  • 連絡先:0298(38)8627
  • 部会名:畜産
  • 専門:育種
  • 対象:豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

家畜において重要なホルモンである成長ホルモン・プロラクチンは,標的細胞膜上に存在する受容体に結合し,一部のサイトカインと同様に,受容体に共存す る細胞内情報伝達分子であるJAK2を活性化し,各ホルモン/サイトカインに応じて遺伝子発現を調節することがヒト・マウスで知られている。しかしなが ら,家畜においてはJAK2遺伝子そのものも分離されておらず,家畜における細胞内情報伝達系の詳細は不明である。そこで,まずブタにおいてJAK2遺伝 子を分離し,その遺伝子構造を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ヒト・マウスと同様の構造を有するブタのJAK2遺伝子を単離し,DNAバンクに登録した(Accession No.AB006011)。RT-PCRにより,この正常型のJAK2遺伝子はブタの各組織に存在していた。
  • ヒト・マウスでは未知の構造を持つsplicingvariantを2種発見した (図1a , 2a)。各クローンの塩基配列を元に特異的なPCRプライマーを合成し,RT-PCR法により各遺伝子の発現を検討した。これにより,これら異型分子がブタの多くの組織に存在することが明らかとなった(図1b , 2b)。これらはJAK2の蛋白リン酸化活性(キナーゼ)領域の重要な一部分が変異し,あるいはその全てを失っていた(図3)。 マウスでは,キナーゼ領域のみを完全に欠くように人為的に作成された人工変異JAK2は,理論的に予想される通りにdominant-negativeな 作用を持つ。今回分離されたブタ変異JAK2の一つは,これより32残基長いものの,キナーゼ領域を完全に欠いており,dominant- negativeな活性を持つと考えられる。
  • dominant-negative型のJAK2分子がブタと同様にヒト・マウスで存在するか をRT-PCR法により検出した。ブタにおいては4系統6個体の27サンプルすべてにおいてシグナルが確認されたが,ヒト13組織22サンプル(脳,心 臓,肝臓,腎臓,肺,胃,小腸,脾臓,末梢白血球,精巣,胎盤,骨格筋,平滑筋),マウス15組織・細胞28サンプル(脳,心臓,肝臓,腎臓,肺,胃,小 腸,脾臓,胸腺,精巣,骨格筋,平滑筋,皮膚,Ba/F3細胞,DA-3細胞)に対するRT-PCRでは全くシグナルが確認されず,ヒト・マウスではブタ と異なり優性阻害型のJAK2は存在しないと考えられる。従って,ヒト・マウスとブタではJAK2情報伝達系が相違する可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • ブタにおいてはヒト等と異なり,阻害型のJAK2が存在するため,ブタにおいてホルモンの効果が減じていないかを検討する必要がある。

具体的データ

図1a 異型JAK2(clone50)の塩基配列(部分)

図2a 異型JAK2(clone49)の塩基配列(部分)

図1b RT-PCRによるclone50異型JAK2の発現検出

図2b RT-PCRによるclone49(優性阻害型)異型JAK2の発現検出

図3 各クローンがコードするJAK2タンパクの模式図