昆虫可動因子の水平伝搬に昆虫の寄生関係が関与している

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要約

寄主寄生者関係にあるチャノコカクモンハマキとハマキコウラコマユバチのマリナー様因子を単離し塩基配列を比較したところ,この2種の因子の配列は97.8%相同であった。この結果から,マリナー様因子はこの2種間で水平伝搬し,両種間の寄主寄生者関係が水平伝搬の機構に関与していると考えられる。

  • 担当:畜産試験場 育種 みつばち研究室
  • 連絡先:0298(38)8626
  • 部会名:畜産
  • 専門:遺伝
  • 対象:昆虫類
  • 分類:研究

背景・ねらい

可動因子(動く遺伝子,トランスポゾン)は生殖を経ずに一つの種から別の種に移動する(水平伝搬)ことが知られている。特にモーリシャスショウジョウバ エの可動因子マリナー因子と相同な配列(総称してマリナー様因子と呼ぶ)が多くの昆虫種で発見され,その分布から,水平伝搬で分布を広げたと考えられてい る。しかし,その水平伝搬の機構については明らかになっていない。そこで本研究では,寄主寄生者関係にある昆虫種からマリナー様因子を単離し,その塩基配 列の比較から寄生関係の水平伝搬への関与を検討した。

成果の内容・特徴

  • チャノコカクモンハマキ(鱗翅目(蛾),寄主)Adoxophyes honmaiとハマキコウラコマユバチ(膜翅目,寄生蜂)Ascogaster reticulataゲノミックDNAを鋳型にPCR法でモーリシャスショウジョウバエマリナー因子の転移酵素領域(約500bp)のプライマーでDNA を増幅した。このPCR産物の塩基配列は既報のクサカゲロウのマリナー様因子と相同(78%)であり,これらの2種にマリナー様因子が確認できた。両者の 増幅産物の塩基配列を比較したところ98.7%相同であった。
  • 前記の増幅産物をプローブにこの2種でゲノミックライブラリーから完全長のマリナー様因子を単離した。その塩基配列を比較したところ,1295bp中1265bpが相同(97.8%)であった(図1a)。
  • この2種から単離した計5コピーのマリナー様因子は他の昆虫種のマリナー様因子に共通の特徴(挿入部位にTA配列,両端には末端反復配列)を持っていた(図1b)。
  • 寄主であるチャノコカクモンハマキ及びその近縁種のチャハマキ等と寄生蜂であるハマキコウラコマユバチには相同なマリナー様因子が存在していたが,寄生関係のないハマキコウラコマユバチの近縁種には存在していなかった(図2)。
  • 以上の結果からマリナー様因子はチャノコカクモンハマキからハマキコウラコマユバチに水平伝搬し,その水平伝搬には寄生関係が関与すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • この結果は昆虫の寄生関係が可動要因の水平伝搬に関与することを示したもので,水平伝搬の機構解明に活用される。この結果が他の可動因子にも該当するかについては更なる研究が必要である。

具体的データ

図1 チャノコカクモンハマキとハマキコウラコマユバチのマリナー様因子の比較

図2 PCR法によるマリナー様因子移転酵素領域の増幅