抗体産生抑制機能をもつ新規マウス・バイエル板丁細胞クローンの樹立

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要約

9一ラクトグロブリン(BLG)の投与により経口免疫寛容を惹起したマウス・バイエル板に,免疫応答抑制性丁細胞群が誘導されることを明らかにし,さらにBLG特異的CD4十丁細胞クローンを樹立することに成功した。それらは抗体産生抑制性の機能を持つ新しいタイプの抑制丁細胞である。

  • 担当:畜産試験場 加工部 畜産物機能開発研究室
  • 連絡先:0298(38)8687
  • 部会名:畜産・食品
  • 専門:加工利用
  • 対象:牛・実験動物
  • 分類:研究

背景・ねらい

アレルギー疾患や各種免疫病の予防・治療方法として経口免疫寛容の応用が期待されている。経口免疫寛容により炎症性丁細胞が抑制されるメカニズムは近年 明らかになりつつあり,実際に丁細胞が引き起こす自己免疫疾患の治療への応用も試みられ始めた。しかし経口免疫寛容による抗体産生抑制のメカニズムは未だ 明らかになっていない。抗体産生に抑制性に働く細胞群の性質を知るため,経口免疫寛容の誘導器官である消化管のバイエル板よりβ一ラクトグロブリン (BLG)特異的なCD4+(従来のヘルパー丁細胞サブセットに特徴的なCD4分子を表現する)T細胞クローンを樹立し,その機能を明らかにすることを目的とした。

成果の内容・特徴

  • BLGを投与して経口免疫寛容を誘導したマウスのバイエル板より6株のBLG特異的CD4+T細胞クローン6株を樹立した(PP1,PP2,PP3,PP4,PP5,PP6)。それらはin vitroでの抗体産生を抑制する機能を有していた(図1)。
  • これらのT細胞クローン自身は抗体産生補助活性をほとんど示さなかった( 図2 )。
  • これらの丁細胞クローンは産生サイトカインパターンが異なったが,共通して抑制性サイトカイン であるインターフェロン(IFN)一γとインターロイキン(IL)一10のメッセージを強く発現していた。抗体産生の補助に働く Th2(Thelper2)型のサイトカインであるIL-4,IL-5,IL-6の発現は弱かった( 図3 )。
  • バイエル板へのホーミングレセプターであるα4β7インテグリンを表現している( 図4 )。そのため,これらCD4+T細胞クローンは生体内を巡った後もバイエル板に回帰し,繰り返しBLGにより刺激を受けることにより機能を持続し,経口免疫寛容状態の維持に寄与する可能性がある。
  • 上記のことより,樹立T細胞クローンは抗体産生補助機能が低くさらに積極的な抗体産生抑制機能を持つ新規な抑制性T細胞クローンであることがわかった(図5)。

成果の活用面・留意点

  • 食物アレルギーなど主に抗体が関与して引き起こされる疾病に対して経口免疫寛容現象を利用するためには,その抗体産生抑制の機構を解明する必要がある。 本研究により新たに樹立された抗体産生抑制性T細胞クローンの性質が明らかとなれば,それらの細胞群を積極的に誘導したり活性化する方策を探ることが可 能となる。すなわち,経口免疫寛容を効率よく誘導・持続させる技術が開発されることになり,抗体関与の免疫病を経口免疫寛容の応用により制御する可能性が 広がる。

具体的データ

図1 パイエル板由来T細胞クローンのin vitro抗体産生抑制機能

図2 パイエル板由来T細胞クローンのin vitro抗体産生補助機能

図3 パイエル板由来T細胞クローンのサイトカイン産生パターン

図4 フローサイトメーターによるPP4の表面抗原解析

図5 パイエル板由来T細胞クローン