脂肪組織形成における細胞外基質の重要性
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化の過程で,細胞は細胞外基質(ECM)を大量に分泌し,脂肪組織を構築する。このECMの代表的成分であるコラーゲンの産生を阻害すると脂肪細胞内の脂肪蓄積量は著しく低下する。
- 担当:畜産試験場 加工部 食肉特性研究室
- 連絡先:0298(38)8686
- 部会名:畜産
- 専門:加工利用
- 対象:肉用牛
- 分類:研究
背景・ねらい
筋肉内の脂肪は,食肉の風味や枝肉の価値を左右する重要な要因である。しかし,家畜の肥育に伴い筋肉内結合組織に沈着してくるこの脂肪組織形成のメカニズムはほとんど不明である。
そこで我々は,脂肪の蓄積場所となる結合組織の主成分であり,生理的活性を持つといわれる細胞外基質(ECM)に着目し,脂肪前駆細胞の増殖・分化及び組織構築に関わるその役割を解明することを目的とした。
成果の内容・特徴
- 黒毛和種牛胸最長筋より採取した組織切片を用いて間接蛍光抗体染色によ
り各種ECM成分の局在を検討した結果,筋肉内結合組織と,肥育に伴いそこに生じた脂肪組織を構成するECM成分は大きく異なっていた。筋周膜や筋内膜に
おけるECMの分布が極めて局在的であるのに対し,脂肪組織では各種ECM抗体で強染された(表1)。このことは,生体内における筋肉内脂肪組織の発達過程でECMの質と量が大幅に変化することを示す。
- 黒毛和種牛胸最長筋由来の脂肪前駆細胞を脂肪細胞へと十分に分化させた後,各種ECM抗体で染色した結果,各タンパク質とも脂肪細胞間及び細胞表面を覆う網目状の線維構造を示した(図1)。
- 1231標識抗体を用いて,前駆細胞と脂肪細胞における各種ECM成分の細胞表面沈着量を比較した結果,脂肪細胞で有意に各ECMタンパク質の量が増加した(図2)。このことから,脂肪組織で観察された大量のECMは細胞分化の過程で,脂肪細胞自身が産生したものであることが判明した。
- CMの代表的成分であるコラーゲンの分泌阻害剤(Ethy13,4-dihydroxybenzoate)を用いて,脂肪細胞分化に及ぼす影響を検討したところ,細胞内トリグリセリド(TG)蓄積量は正常分化時の半量に抑制された(図3)。
成果の活用面・留意点
- 筋肉内脂肪の蓄積にECM成分が影響を及ぼすということは,優れた脂肪交雑を作成する上での新たな指標となる可能性がある。
しかし,その具体的な作用機序は不明であるため,更なる検討を要する。
具体的データ



