採草・放牧兼用草地における1番草への排泄尿の肥効

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要約

採草地で秋期に3番草に対して放牧を導入する兼用利用をおこなうと、尿が草地に広く排泄散布され、尿あとの面積は草地の約20%を占める。その尿あとでは、翌春の1番草の収量が増加し、尿が秋施肥的な効果を示す。

  • 担当:草地試験場・山地支場・草地土壌研究室
  • 連絡先:0267-32-2356
  • 部会名:草地・生産管理
  • 専門:草地土壌
  • 対象:牧草類
  • 分類:研 究

背景・ねらい

傾斜草地の利用には草地保全の面から永年草地とすることが望ましく、さらに養分循環や施肥作業を考慮する と、採草主体草地であっても放牧を含めた採草・放牧兼用草地としての利用が有効と考えられる。しかし、放 牧時のふん尿の肥料的効果は明らかではない。 そこで、オーチャードグラス主体採草地において、排泄される尿の分布とその効果の把握をおこない、傾斜採 草地における施肥の軽減に役立てる。

成果の内容・特徴

  • 放牧後に牧草葉色の明らかに濃い区域を尿排泄区域として、調査した結果、尿あとは放牧牛の歩行頻度の 高い牧柵周辺に若干偏る傾向があるものの、牧 区全体に広く分布する。尿あとの分布面積の割合は、草量約200 kg/10aの3番草に対して10日から14日間繁殖牛2頭/10aの放牧利用をおこなうと、1年目25%、2年目21%、 3年目17%となり、草地面積 の約20%に散布される (図1) 。このときの施肥量は窒素-リン酸-カリそれぞれ成分で10a当たり早春に8.0-10.5-7.4kg、1,2番草刈り取り ごとに8.0-4.0-8.0kgである。
  • 放牧後35日目の土壌中の無機態窒素と交換性カリウムの濃度は、尿あとと尿あと以外の場所(非尿部 )ではほとんど差がない。しかし、尿あとの牧草の乾物重は、非尿部に比べて約1.8倍、また養分吸収量は、窒 素で約3.7倍、リン酸で約1.5倍、カリウムで約2.5倍になり (表1) 、さらに放牧翌春の出穂茎数は約2.3倍に高まる。このことから土壌に散布された尿中の養分は越冬前に速やか に牧草に吸収され、翌春の出穂を促す秋施肥的な効果を持つと考えられる。
  • 放牧翌年の牧草収量は、1年目、2年目ともに1番草では尿あとが非尿部の約2倍になったのに対し 、2番草以降はほとんど差がなく、1番草の増収分が年間収量増となっている (表2) 。

成果の活用面・留意点

  • 1番草収量が増加することから早春施肥の軽減が可能である。
  • 牧草種によっては効果が期待できない場合がある。また、3番草の草量により、放牧期間や排泄尿量 が異なる。

具体的データ

図1 兼用草地における放牧後の排泄尿の分布

表1 放牧後35日目の土壌養分及び牧草の生育量と養分吸収量

表2 尿排泄が牧草収量に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:採草・放牧兼用草地による傾斜草地の低コスト管理法の確立
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成10年度(平成7年~10年)
  • 研究担当者:小島 誠、山本 博、山田大吾、渡辺治郎
  • 発表論文等:兼用草地における排出尿の役割、日土肥学会講要、43、1997