搾乳牛のリン出納からみたリン排泄量低減

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要約

泌乳前期の乳牛に要求量以上のリンを給与しても,リン摂取増加量の88%は糞へ排泄され,体内へのリン蓄積量,乳量は増加しない。必要以上にリンを給与しないことが乳牛によるリン排泄量低減に有効である。

  • 担当:草地試験場・飼料生産利用部・乳牛飼養研究室
  • 連絡先:0287-37-7806
  • 部会名:草地・飼料利用
  • 担当: 畜産
  • 専門:動物栄養
  • 対象:家畜類
  • 分類:指導

背景・ねらい

リンは環境汚染物質のひとつで,河川,湖沼の富栄養化の原因となるので,家畜から排泄される量の低減が望まれている。乾草やサイレージは穀類等の濃厚飼料に比べて,カルシウムが高く,リンが低い。濃厚飼料のなかにはリン含量が乳牛の要求量の数倍に達するものもある(図1)。乳量が高まり,飼料への濃厚飼料の配合割合が増えているので,要求量以上にリンを給与する可能性が高い 。そこで,要求量以上にリンを摂取した乳牛によるリンの利用性と排泄量を調べて,リン排泄量低減のための飼養管理法を検討する。

成果の内容・特徴

  • リンを要求量の100から175%の範囲で,要求量以上に給与しても,泌乳前期のホルスタイン種雌の体内にリンは蓄積されない(表1)。
  • 乳牛によるリン摂取量が高くなると,リンの糞への排泄量と牛乳への移行量が多くなる関係があるが,体内に蓄積されるリンと乳量は必ずしも増加しない(表2)。
  • リン摂取量の増加に伴って糞への排泄量および牛乳への移行量は直線的に増加する。直線の傾きから,要求量以上にリンを摂取する乳牛では糞への排泄率の88%に比べて牛乳中への移行率は19%と少ないことがわかる(図2)。
  • 泌乳牛のリン排泄量を低減するには,牧草・飼料作物類の給与量を増やしてリン給与量を抑えるとともに,飼料に必要以上にリン添加剤を加えないことが有効である。

成果の活用面・留意点

  • 酪農家がリン添加剤の使用量を適切に管理するという簡単なやり方でリン排泄量の低減が可能で,乳生産 の低下の懸念もないので,すぐに実行できる技術である。
  • 濃厚飼料の多給等のためにリンの要求量は満たしているが,カルシウムが不足する場合に,リン酸カ ルシウムを飼料に添加すると,ますますリン給与量が多くなる。カルシウム添加には炭酸カルシウムで十分で ある。

具体的データ

図1 各種飼料のカルシウムとリン含量の比較

表1 泌乳牛のリン出納

表2 リン摂取量と糞、尿、牛乳への移行量、体内蓄積量および乳量との相関係数

図2 リンの摂取量と糞と牛乳への移行量との関係

その他

  • 研究課題名:粗飼料の高度利用による乳牛のリン排泄量軽減技術の開発
  • 予算区分 :総合的開発研究(家畜排泄物)
  • 研究期間 :平成9年度(平成9年~11年)
  • 研究担当者:石田元彦,安藤 貞,西田武弘
  • 発表論文等:要求量以上にリンを摂取した泌乳前期の乳牛におけるリンの利用性.
                      日本畜産学会第94回大会講演要旨.p. 76