牛の歩行運動と熱産生量および体温の関係

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要約

歩行運動負荷の繰り返しにより,牛の熱産生量および膣と体表面4カ所よりなる平均体温は増加する.しかし,末梢部である管の体表温度は歩行時には低下し,休息時に徐徐に増加した.運動負荷に対する平均体温の反応は熱産生量に比べ遅れる.

  • 担当:草地試験場・放牧利用部・放牧飼養研究室
  • 連絡先:0287-37-7809
  • 部会名:畜産・草地
  • 専門:飼育管理
  • 対象:家畜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

フリーストール牛舎や放牧において,温熱環境管理を行う場合,牛の熱収支がわかると大変有用である.熱収支は熱産生量(HP)および熱吸収量と熱放散量の差であり,この値が正の時に蓄熱し体温が上昇する.熱産生量が増加する歩行運動時には蓄熱量も増加し体温の上昇が観察されるが,体の部位によってその反応は異なると考えられる.そこでトレッドミルを用い,歩行運動と熱産生量,各体表面温度,および平均体温(Tb)の関係を調べた.

成果の内容・特徴

  • ホルスタイン種育成雌牛4頭と黒毛和種育成雌牛4頭を供試し,熱的中性圏内でトレッドミルにおいて6.7m/min.~30.0m/min.の範囲で5段階の異なったスピードで歩行させながら,呼吸試験を行った.歩行は15分間行い,歩行と歩行の間の休息時間は10分間であった.同時にTb算出の基礎となる,膣温(VT),皮膚表面温の測定を行った.皮膚表面温は背(A),肩(B),上腕(C),管(D)の4点を計測し,McLeanの方法により平均体温(Tb)=0.86VT+0.14(0.25A+0.25B+0.32C+0.18D) として算出した.
  • 膣温と背,肩の表面温は歩行を重ねるにしたがって漸増したが,管の表面温の増加は一定でなく,最初の歩行時を除いて直前の休息時とくらべて低下し,歩行を中止すると上昇するということを繰り返して全体として上昇し,歩行速度30m/min.には開始時より1.6~8.0°C上昇した. (図1)
  • 歩行速度で表される運動強度とHPは直線回帰の関係で表され,有意な高い相関を示した.(図2)これに対し皮膚表面温と平均体温の運動強度に対する反応は遅れることがわかった.

成果の活用面・留意点

  • Tbが運動の結果,牛に及ぼす温熱環境の影響を推定する指標として,暑熱対策等に役立てられる可能性がある.
  • Tbは他の生理指標ほど,その反応が速くないため,1回の測定ではなく,経時的に数回測定し,相対的な変化をつかむことが必要である.

具体的データ

図1 膣温、平均体温、管囲皮膚表面温の歩行運動による変化

図2 歩行速度と熱産生量の関係

その他

  • 研究課題名:平均体温を指標とした放牧牛の熱収支の測定手法の開発
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成10年度(平成7年~10年)
  • 研究担当者:安藤 哲,大槻和夫,栂村恭子
  • 発表論文等:安藤 哲,大槻和夫,育成牛における熱産生量と平均体温に及ぼす歩行運動の影響,日本畜産 学会報,68巻9号,1997