ミツバチ卵へのDNA注入を目的としたマイクロインジェクション法
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
ミツバチに外来DNAを注入する目的で、卵へのマイクロインジェクション法を開発した。この方法でDNAを注入した卵は、高湿度35°Cの条件で72時間後約60%が孵化する。
担当:畜産試験場・育種部・みつばち研究室
連絡先:
0298(38)8626
部会名:畜産
専門:昆虫機能
対象:みつばち
分類:研究
背景・ねらい
形質転換体作成のため外来DNAを導入するには、卵へのマイクロインジェクションが一般的かつ実用的な方法である。しかし、ショウジョウバエを除く
殆どの昆虫では、その技術が開発されていない。ミツバチにおいてもマイクロインジェクション法は確立しておらず、研究の進展を阻害してきた。ミツバチ独自
の実用的なマイクロインジェクションの方法を検討する必要がある。
成果の内容・特徴
この手順を遂行するにあたり、以下の点について留意して行う。
- 卵の取り扱い:他の昆虫卵に比べ、ミツバチ卵は著しく壊れやすく、かつ温度の変化に弱い。このため特殊なローヤルゼリー採取用ケージを用いて卵を採取する。また実験室温を30°Cに設定し、加湿器を常時使用する。
- コリオン膜の扱い:卵のコリオン膜は除くことは可能であるが、膜自体が透明であり、また微針が貫通可能であるので、膜を除去することなしに、マイクロインジェクションは可能である。
- 乾燥:乾燥しない卵はDNA溶液が吸収できず培養の過程で“パンク”してしまい、孵化しない。乾燥法はシリカゲルを使う方法がもっとも確実性が高く、乾燥時間は実験環境によって左右されるが、6分前後を最適である。
- オイル:ミネラルオイルがもっとも孵化率が良い。シリコンオイルも孵化率が高いが、幼虫がコリオン膜から脱出できない。
- DNA濃度:2000?g/ml 以下の濃度では卵の生存に影響しない。
- 注入時期:産卵後3時間までの卵は著しく柔らしく注入は不可能である。また産卵後11時間後までに極細胞の形成が終了するのでそれ以前にマイクロインジェクションする必要があるが、そのような卵はコリオン膜と卵黄膜間に空隙があるので選択可能である。
成果の活用面・留意点
このインジェクション法により、DNAなどの溶液を卵に注入することができる。オイルは孵化後の幼虫にとって有害であり、また働きバチの保育行動を阻害するので、オイルを速やかに確実に除去する必要がある。
具体的データ
ミツバチマイクロインジェクションの手順
- インジェクション前日に女王を産卵用ケージに入れる。
- 翌朝室温30°C、加湿した実験室で、両面テープの上に尾部側が針に向くように卵を並べる。
- シリカゲル入りの箱で卵を乾燥する。(6分前後)
- ミネラルオイルで卵を被う。
- 微針によりインジェクション適期卵にDNAを導入する。
- インジェクション後の卵は高湿度35°Cで培養する。(飽和硫酸銅溶液使用)
- 72時間後から随時孵化した幼虫を回収する。


図1 マイクロインジェクションの概要
A. インジェクションの様子(中央部の縦線が両面テープの端。写真右よりガラス微針により注入する。)
B. インジェクション後48時間後の卵。 C. 72時間後に卵より孵化した幼虫
その他
- 研究課題名: 培養細胞系を用いたミツバチ可動因子探索とその利用
- 予算区分: バイテク特別研究「昆虫機能」
- 研究期間: 平11年度(平5?11年)
- 研究担当者: 木村澄・天野和宏
- 発表論文等: Kimura, K and M. Yoshiyama The current status of transgenic research in honeybees. The 7th IBRA conference of tropical bees ( 2000 Mar. 18-25 Chiang-Mai Thailand)