ウシ未受精卵子の極めて生存性の高い凍結保存法
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要約
ウシ未受精卵子をマイクロドロップレット法により凍結保存することによって,実用可能な融解後の高い生存率と体外受精後の高い発生率が得られる。凍結保存した卵子は体外受精後,受胚牛に移植すると正常な産子が得られる。
- 担当:畜産試験場 繁殖部 生殖細胞研究室
- 連絡先:0298(38)8635
- 部会名:畜産
- 専門:繁殖
- 対象:乳用牛・肉用牛
- 分類:
背景・ねらい
近年,生体のウシより超音波ガイドを用いて卵子を採取する技術が確立され,この技術を使うことによって同一個体の卵子を用いたクローン動物の作出が可能と
なる。しかし,1回に生体より採取できる卵子数は10個程度と少ないため,効率的に核移植を行うためにはこれらを凍結保存し,卵子数をある程度まとめてか
ら行うのが有効である。そこで,ウシ未受精卵子をガラス化液とともに直接液体窒素へ滴下するマイクロドロップレット法を用いた生存性の高い凍結保存方法を
開発する。
成果の内容・特徴
- 成熟培養22-24時間目に卵丘細胞を除去したウシ未受精卵子を,1,2,3,4,5,6%の各濃度のエチレングリコール
(EG)に12?16分間平衡後,凍結保護溶液(5.5M
EG +
1Mシュークロース)へ30秒間浸し,液体窒素中に少量(4-8μl)の凍結保護溶液とともに直接滴下し(マイクロドロップレット法),保存した。融解及
び凍結保護溶液の除去は38.5°Cの20%FCS加TCM199で5分間行った。融解後の生存率はいずれも90%以上であった。その後卵子を体外受精して
胚盤胞への発生率を調べたところ,3%のEG溶液で平衡後凍結保存した卵子は,凍結保存していない卵子(対照区)と同程度の高い発生率を示した(
図1
)。
- 凍結保存卵子を融解後,体外受精して得られた胚盤胞期胚を受胚牛に移植したところ,正常な産子が得られた(
図2
)。
成果の活用面・留意点
本法はウシ未受精卵子の実用的な凍結保存方法である。この方法を用いることにより,ウシ未受精卵子の長期保存が可能となり,クローン牛作出の効率化や希少な遺伝資源の保存に貢献できる。
具体的データ

図1.異なった濃度のエチレングリコール液で平衡後に凍結保存したウシ未受精
卵子の体外受精後の発生率(対照区=凍結保存していない卵子)

図2.マイクロドロップレット法により凍結保存したウシ未受精卵子由来の産子
その他
- 研究課題名: 牛卵胞卵子の発育・退行の評価法に関する研究
- 予算区分: 科技庁・重点基礎
- 研究期間: 平成11年度(平成10年度)
- 研究担当者: 志水 学,Krzysztof Papis,Saha Sukumar,居在家義昭
- 発表論文等:
1.The effect of gentle pre-equilibration on survival and development rates of bovine in vitro matured oocytes vitrified in droplets. Theriogenology, 51, p173 (1999)
2.特許(出願中):細胞の凍結保存方法,特願平11-1975号