フィターゼの利用による肥育豚からのリン排泄量の低減

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要約

トウモロコシと大豆粕を主体とした無機リン無添加の低有効リン飼料に、飼料添加用フィターゼを、1kg当たり1,000単位を添加して肥育豚に給与することにより、成長や骨の成分に悪影響を及ぼすことなく、リン排泄量を30%低減できる。

  • 担当:畜産試験場 栄養部 中小家畜栄養管理研究室
  • 連絡先:0298(38)8656
  • 部会名:畜産
  • 専門:動物栄養
  • 対象:豚
  • 分類:普及

背景・ねらい

家畜から排泄されるリン等の環境負荷物質が環境保全の面から大きな問題になっている。 豚の飼料は、植物飼料原料を主体として配合されており、これに含まれるリンの大半は、フィチンリンの形で存在している。フィチンリンの豚における消化性は極めて低いため、糞へリンが多く排泄され、環境負荷の一因になっている。 最近、フィチンリンを有効リンに加水分解する酵素(フィターゼ)が、微生物を用いて生産できるようになり、飼料添加物として認可されている。しかし、フィターゼのリン排泄量低減効果、成長や骨の成分への影響については、十分明らかにされていない。 そのため、フィターゼを利用して、豚の生産性は維持しつつ、リン排泄量を低減するための技術開発が必要である。

成果の内容・特徴

  • トウモロコシと大豆粕を主体とした無機リン無添加の低有効リン(0.19%)飼料に、フィターゼを1kg当たり1,000単位添加して肥育豚に給与するこ とにより、無機リン添加のリン充足飼料(フィターゼ無添加、有効リン含量0.28%)と比べてリンの消化率が著しく向上し、リンの排泄量が約30%減少す る( 図1 )。
  • 同上のフィターゼ添加低有効リン飼料を肥育豚に給与した場合の飼料摂取量、増体量および大腿骨の成分は、リン充足飼料と比べて差異が認められない(図2)。 3. 以上の結果から、トウモロコシと大豆粕を主体とした無機リン無添加の低有効リン飼料に、フィターゼを1kg当たり1,000単位添加して肥育豚に給与することにより、生産性を損なうことなく、リン排泄量を30%低減できる。

成果の活用面・留意点

  • フィターゼ添加により、飼料原料中のフィチンリンが加水分解されて有効リンに転換するため、 これに相当する量の無機リンの添加量を少なくする必要がある。フィターゼの飼料1kg当たり500~1,000単位の添加は、有効リン量として約0.08~0.12%に相当する(J.Anim. Sci., 74:1601, 1996)。
  • フィターゼを、飼料1kg当たり500~1,000単位の添加により、飼料1kg当たりのコストが約1.2 ~2.4円高くなる。

具体的データ

図1.低有効リン飼料へのフィターゼ添加(1,000単位/kg)が肥育豚におけるリンの消化率およびリ ンの出納に及ぼす影響 (a,c:P<0.05, a,b:P<0.001)

 

図1.低有効リン飼料へのフィターゼ添加(1,000単位/kg)が肥育豚におけるリンの消化率およびリ ンの出納に及ぼす影響 (a,c:P<0.05, a,b:P<0.001)

図1.低有効リン飼料へのフィターゼ添加(1,000単位/kg)が肥育豚におけるリンの消化率およびリ ンの出納に及ぼす影響 (a,c:P<0.05, a,b:P<0.001)

 

図2.低有効リン飼料へのフィターゼ添加(1,000単位/kg)が肥育豚の飼養成績および大腿骨の成分に及ぼす影響 (有意差なし)

 

図2.低有効リン飼料へのフィターゼ添加(1,000単位/kg)が肥育豚の飼養成績および大腿骨の成分に及ぼす影響 (有意差なし)

図2.低有効リン飼料へのフィターゼ添加(1,000単位/kg)が肥育豚の飼養成績および大腿骨の成分に及ぼす影響 (有意差なし)

 

その他

  • 研究課題名:豚におけるリン排泄量の低減技術の開発
  • 予算区分:総合的開発 (家畜排泄物)
  • 研究期間:平成11年度 (平成6年~11年)
  • 研究担当者:斎藤 守、村上 斉、山崎 信
  • 発表論文等:
    1.豚におけるフィターゼの利用によるリン排泄量の低減とフィターゼの効果的利用法. 栄養生理研報,42(2), p141-154(1998)
    2.肥育豚における飼料へのフィターゼの添加水準とリン排泄量との関係.日豚会誌, 32(4),p246-247(1995)
    3.肥育豚に対するフィターゼ添加低リン飼料給与によるリン排泄量低減効果.日豚会 誌,33(4),p155(1996)