ブタ卵巣および精巣におけるコレステロール合成系酵素CYP51遺伝子の発現様式
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要 約
コレステロールの合成系に関与するCYP51遺伝子は、ブタの卵巣では主として黄体で発現し、その発現量は発情周期のステージに依存する。また、精巣では、性成熟に伴い短いサイズのmRNAが発現する。
- 担当:畜産試験場 育種部 遺伝子機能研究室
- 連絡先:0298-38-8662
- 部会名:家畜・食品
- 専門:育種
- 対象:豚
- 分類:研究
背景・ねらい
近年コレステロールの合成系に関与する新しい酵素としてCYP51が見出され、コレステロールの合成に加えて、卵子の成熟や精子形成に関与することが実験
動物で示唆されているが、家畜では明かではない。家畜におけるCYP51の生殖機能への関与を明かにすることを目的として、本研究では、ブタCYP51遺
伝子を単離し、ブタの生殖腺における発現様式について検討する。
成果の内容・特徴
- ブタCYP51は503アミノ酸よりなり、ヒトとの相同性は94%であった。CYP51遺伝子は約21kbのサイズで10個のエキソンより構成されていた。
- CYP51 mRNAのサイズは約2.4kbで、調べた臓器(肝臓, 腎臓, 肺, 心臓, 小腸,
脾臓, 胸腺, 筋肉, 子宮, 卵巣, 精巣)全てで発現していたが、肝臓、精巣、卵巣での発現が強かった。なお、本研究を通じ、CYP51
mRNAの解析はLWD豚を用いて行った。
- 卵巣におけるCYP51 mRNAは主として黄体に存在し、その発現は発情周期のステージに依存していた
(図1)。
即ち、排卵4日後には発現量が増加し、黄体機能が高い7-12日で最大に達した後、急速に減少した。また、排卵直前の卵胞では発現量は低かった。このこと
から、CYP51は、コレステロールの合成を介して黄体の主ホルモンであるプロゲステロンの供給に関与すると考えられた。
- 精巣では、精子形成が開始する4月齢から、2.4kbのmRNAに加えて1.8kbのmRNAが認められた
(図2)。
減数分裂期の精母細胞が存在する3月齢の精巣や精子が含まれる精巣上体では、1.8kbのmRNAは認められないことから、1.8kbのmRNAは精子形
成過程の特定の時期の精子細胞で発現していると考えられた。また、このサイズの相違は、翻訳開始部位ではなく、poly(A)サイトの相違によることが明
かになった。
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以上より、CYP51はブタの卵巣や精巣において、コレステロールの合成を介してプロゲステロンやテストステロンを供給することを通じ、黄体形成や機能あ
るいは精子形成過程に関与すると考えられる。一方、CYP51により生じるMAS(meiosis
activating sterol)はマウスの卵で減数
分裂を促進するとの報告があり、MASを介しての作用機構も示唆される
(図3)。
成果の活用面・留意点
本研究は、CYP51が黄体機能や精子形成に関与することを示唆しており、CYP51が生殖機能の新 たな指標になる可能性がある。その作用機構に関しては今後の検討を要する。
具体的データ




その他
- 研究課題名: 家畜チトクロームP450遺伝子の構造解析とその発現
- 予算区分:経常、小事項
- 研究期間: 平成6年度(平成3~6年度)
- 研究担当者: 小島美咲, 三橋忠由
- 発表論文等:
1.tructure of the pig sterol 14alpha-demethylase (CYP51) gene and its expression in the testis and other tissues. J. Biochem. 127, 805-811(2000)
2.Characterization of pig lanoserol 14alpha-demethylase(CYP51)gene: cDNA sequence, genomic organization and expression in tissues. Animal Genetics 29 (suppl.1), 55 (1998)
3.ブタ卵巣におけるCYP51発現量の発情周期に伴う変動 日本薬学会120年会講演要旨集3, p50 (2000)
4.DDBJ/EMBL/GenBank databases
・Sus scrofa mRNA for lanosterol 14alpha-demethylase, complete cds. (Accession No. AB009988)
・Sus scrofa CYP51 gene for lanosterol 14alpha-demethylase, exon1~exon10 (Accession Nos. AB042975~AB042982)