コメットアッセイ法を用いた牛単一胚のDNA損傷の検出

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要約

牛初期胚が体外培養環境からうける影響、特に酸化ストレス環境が胚発生に及ぼす影響を解析する手法であるコメットアッセイの利用により、損傷を受けたDNAを単一胚から高感度に検出できる。

  • 担当:畜産試験場 繁殖部 受胎機構研究室
  • 連絡先:0298-38-8637
  • 部会名:畜産
  • 専門:繁殖
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

胚の体外発育に大きく影響する要因の一つとして、酸化ストレスが挙げられる。酸化ストレスは細胞のDNAに作用し、損傷を与えることが知られている。そ こで、胚のDNAの損傷を検出し、これを用いて胚の体外培養環境の評価が可能になると考えられる。従来、細胞のDNAの断片化状態を観察する手法として は、多数の体細胞からDNAを抽出した後、電気泳動を行い、断片化したDNAが梯子状になった泳動パターンを検出する手法が用いられてきた。しかし、この 手法を行うには多数の細胞を必要とし、DNA抽出の手間もかかるので、初期胚のような少数の細胞を用いた極く微量のDNAの断片化を調べる際には困難が 伴っていた。そこで、単一初期胚のみでDNAの損傷検出が可能な手法の開発を試みた。

成果の内容・特徴

  • 実体顕微鏡下で胚をスライドグラス上で低融点アガロースドロップに包埋し、その状態で細胞を溶解・短時間の電気泳動を行うことで、胚の断片化したDNAは長距離を移動し、彗星の尾状の形状を示した (図1、 図2)。
  • ウシ胚において、発生率の阻害要因の一つとして知られている高培養酸素濃度(20%)で培養した胚についてコメットアッセイ でDNA損傷を解析したところ、高発生率が認められる低酸素濃度(5%)で培養した胚と比べて、培養3日目において形態的には差は認められなかったが、既 に大きな損傷を受けていることが明らかになった (図3、 図4)。

成果の活用面・留意点

本検出法は全DNAを検出する手法なので、ミトコンドリアDNAを大量に持つ初期胚では、ゲノムDNAかミトコンドリアDNA由来の損傷かが区別できない。

具体的データ

図1 コメットアッセイ法の概略

 

図2 コメットアッセイ法による初期胚のDNA損傷

 

図4 低酸素(5%)および高酸素(20%)濃度で培養された3日目ウ胚の形態およびDNA損傷

 

図3 ウシ体外培養胚の発生及びDNA損傷に及ぼす酸化ストレスの影響

 

その他

  • 研究課題名: 体外培養初期胚の発生および遺伝子発現に及ぼす酸化ストレスの機構の解明
  • 予算区分: バイテク(動物ゲノム)
  • 研究期間: 平成12年度(平成9~11年度)
  • 研究担当者: 高橋昌志、高橋ひとみ、岡野 彰、永井 卓
  • 発表論文等:
    1.M. Takahashi, N. Saka, H. Takahashi, Y. Kanai, R. M. Schultz, A. Okano., Assessment of DNA damage in individual hamster embryos by comet assay. Mol Reprod Dev 1999,54(1):1-7
    2.M. Takahashi, K. Keicho, H. Takahashi, H. Ogawa, R.M. Schltz and A.OKano., Effect of oxidatiove stress on development and DNA damage in bovine embryos by comet assay., Theriogenology., 54(1):137-145, 2000
    3.「人工授精の胚損傷検出に新手法開発」, 1996 日経産業新聞 1月10日号記事
    4.コメットアッセイを用いた単一胚のDNA損傷の検出、高橋昌志、畜産の研究 51(2),p40-44, 1997