豚の妊娠成立にはインテグリンαvβ3、ビトロネクチンが関与している

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要約

豚の妊娠成立には、子宮内膜上皮および胎子栄養膜に存在するインテグリンαvβ3とそのリガンド(特異的に結合する物質)であるビトロネクチンが関与している。

  • 担当:畜産試験場 繁殖部 受胎機構研究室
  • 連絡先: 0298-38-8637
  • 部会名: 畜産
  • 専門:繁殖
  • 対象: 豚
  • 分類: 研究

背景・ねらい

家畜の妊娠成立には、母体側の子宮内膜上皮と胎子側の胎子栄養膜との接着が不可欠な要素である。子宮内に胎子が存在していることを母体が感知する妊娠認 識が起こると同時に、胎子の子宮内膜への接着・着床が起こる。これら一連の現象に、種々の細胞接着分子が作用していると考えられているが、その作用機序に ついては不明な点が多い。 本研究では、細胞接着分子のうちヒトの子宮内膜で着床期特異的に発現することが報告されているインテグリンαvβ3と、そのリガンド(特異的に結合する 物質)であるビトロネクチンの着床期における役割を明らかにすることを目的とした。

成果の内容・特徴

  • αv、β3インテグリンサブユニットおよびビトロネクチンの局在を観察した。その結果、子宮内膜上皮では、発情周期、妊娠期 を通してαv、β3インテグリンサブユニットの局在が見られ、発情周期18日および妊娠18日にビトロネクチンの局在が見られた。一方、胎子栄養膜では、 αv、β3インテグリンサブユニットの局在が認められた。さらに、子宮内膜上皮と胎子栄養膜との接着部位でαv、β3インテグリンサブユニットの局在が認 められた (図1)。以上の結果から、豚の妊娠成立にはインテグリンαvβ3およびビトロネクチンが関与していることが示唆された。
  • αv、β3インテグリンサブユニットおよびビトロネクチン遺伝子を半定量的にRT-PCRで検出し、各遺伝子の発現量をβ- アクチンで補正して算出した。その結果、β3インテグリンサブユニットの遺伝子発現は、妊娠15日で同時期の発情周期のものと比較して有意に高かった。ま た、ビトロネクチンの遺伝子発現は、発情周期18日および妊娠18日で高かった。一方、胎子栄養膜におけるビトロネクチンの遺伝子発現は、妊娠が進むにつ れて有意に増加した (図2)。
  • PCR 生成物をサブクローニングし、シークエンスを行なった結果、αvインテグリンサブユニットは、ヒトと94%の相同性があり、β3インテグリンサブユニットはヒトと89%の相同性があった。

成果の活用面・留意点

得られた結果は、今後の妊娠成立機構解明への研究と早期妊娠診断法の開発に、新たな知見を提供できる。

具体的データ

図1 妊娠18日の子宮における抗αv(A)、β3(B)インテグリンサブユニット抗体および抗ビトロネクチン抗体(C)を用いた蛍光染色像

 

図2 発情周期・妊娠期の子宮内膜、胎子栄養膜におけるβ3インテグリンサブユニットおよびビトロネクチン遺伝子発現量のβ-アクチンに対する割合

 

その他

  • 研究課題名: 家畜の妊娠成立における胚-母体間の相互作用機構の解明
  • 予算区分: 科学技術特別研究員
  • 研究期間: 平成12年度(平成10~12年度)
  • 研究担当者: 小川英彦、高橋昌志、・高橋ひとみ、岡野 彰
  • 発表論文等: αv、β3インテグリンサブユニットの塩基配列を GenBank に登録済 (アクセッション番号:AB048865(αv)、AB048866(β3))