長期培養による体外培養ウシ胚由来栄養膜細胞の大量確保
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要約
ウシ透明帯脱出胚の長期培養により、妊娠シグナル産生細胞である栄養膜細胞の長期大量培養に成功した。この細胞は、胚盤胞と同様に腔胞形成能を有すると共にインターフェロンの発現能も有している。
- 担当:畜産試験場 繁殖部 受胎機構研究室
- 連絡先:0298-38-8637
- 部会名:畜産
- 専門:繁殖
- 対象:牛
- 分類:研究
背景・ねらい
胚-母胎間の妊娠認識が行われる際に、胚の栄養膜細胞(trophoblast)が妊娠認識物質を産生、分泌していることが報告されている。受精胚の移
植において、移植胚の産生する妊娠認識物質の補強を目的とした栄養膜由来小胞の共移植による胚移植後の受胎率向上が試みられている。現在、共移植に用いる
栄養膜小胞の作成には、一般的に妊娠14日前後の伸張胚を灌流採取し、細切後形成された栄養膜小胞を移植する方法がとられている。しかし、この手法には過
排卵処置や子宮灌流に労力を伴うことに加えて、成長した伸張胚の回収効率が必ずしも高くない。そこで、本研究においては、体外受精由来のウシ透明帯脱出胚
盤胞を用いて、長期培養による栄養膜細胞の大量確保および凍結保存を試みる。
成果の内容・特徴
-
体外受精由来ウシ透明帯脱出胚を継続して培養し、その接着・増殖能を検討したところ、使用培養液の違いにより増殖に差異が認められた
(図1)。
- 胚の接着・増殖能を最も促進した培養液(RPMI-1640)を使用して培養を継続したところ、栄養膜細胞の単層が得られた
(図2a)。
- 栄養膜細胞の単層を分散し、継代培養を試みたところ、酵素処理により完全分散された栄養膜細胞は細胞自身の胞状化が認められ、その後の増殖は起こらなかった
(図2b)。これに対して、細胞塊を残してピペッティングにより物理的に分離すると、培養皿に接着し、その後の増殖が認められた
(図2c)。
- 3)のピペッティングによる物理的分散および培養を行うことで、38代の継続培養が可能であった。また、分散された栄養膜細胞塊は胚盤胞と同様な腔を形成し(図2d)、最大直径5mmの腔胞形成が認められた
(図2e)。
- 継代培養栄養膜細胞および栄養膜小胞は、胚盤胞期胚で確認されたインターフェロンτ(IFN-τ)
(図3)、インターロイキン6(IL-6)および腫瘍壊死因子(TNF-?)の遺伝子発現能を少なくとも38代目まで引き続き有していた
(図4)。
成果の活用面・留意点
本研究より、体外受精胚から大量に培養栄養膜細胞を確保することができた。この細胞を利用することで、将来的に受精卵との共移植技術と組み合わせた妊娠シ
グナルの補強を計れる可能性がある。しかし、主要な妊娠シグナルの一つであるIFNτの産生量は初期胚と異なり減少していたことから、培養栄養膜細胞の利
用に当たっては、インターフェロン発現機構の遺伝子レベルからのさらなる解析と制御手法の開発が必要である。
具体的データ




その他
- 研究課題名: 胚-母体間の妊娠認識に関わる細胞間情報伝達物質の機構解明
- 予算区分:
畜産対応研究[繁殖技術]
- 研究期間:
平成12年度(平成7~12年度)
- 研究担当者:
栗崎純一,水町功子,辻 典子
- 発表論文等:
1.Culture of trophoblast cells obtained by in vitro derived bovine embryos.
Cloned animals and placentation, p147-151(2000)
2.ウシ透明帯脱出胚の体外接着に及ぼす細胞外マトリックスの作用. 第91回日本畜産学会大会講演要旨,
p232, 1997
3.体外受精胚由来ウシTrophoblast細胞におけるインターフェロンτの産生.第93回日本畜産学会講演要旨p139(1997)