牛の脳機能解析に用いる脳定位固定装置
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要約
牛の中枢神経調節機能を解析するために、新たに牛脳定位固定装置を開発した。この装置は頭部固定ユニット、自動マニピュレータ、上下動可能な移動台車から構成されおり、子牛から成牛の頭部を固定できる。
- 担当:畜産試験場 ・生理部 神経生理研究室
- 連絡先:0298-38-8644
- 部会名:畜産
- 専門:生理
- 対象:乳用牛・肉用牛
- 分類:研究
背景・ねらい
代表的な産業家畜である牛では、これまで主に、発育、繁殖、泌乳の内分泌調節系や抗病性に関連する免疫調節系について研究が進められている。しかし、牛
の中枢神経系における採食、本能行動などの制御機構は殆ど解明されていない。牛の脳研究が遅れている大きな要因は、牛の頭をあらかじめ定めた位置に固定し
て脳内神経機構を解析するための脳定位固定装置が開発されていないことにある。そこで、本研究では牛の脳機能解析に不可欠な脳定位固定装置を開発すること
を目的とする。
成果の内容・特徴
- ホルスタイン種雌・雄牛(体重61.8±0.8 kg(n=3)~542.8±30.5
kg(n=4);平均値±標準偏差)の頭部のサイズと重量を測定し、牛脳定位固定装置を設計・製作した。脳定位固定装置はイア-バ-、アイバ-、上顎支え
及び下顎支えの各ユニットから構成されているが、子牛から成牛の頭部を一台の装置で固定するために、イアバー以外のユニットを可動式とした。また、牛の体
高にあわせて装置全体の高さを調整するための油圧リフトを組み入れた。本装置を用いて、子牛から成牛の頭部(最大重量、27kg)を固定できることが確認
された。
- 試作した装置には精度を向上させるために、自動マニピュレータを設置した。マニピュレータの前後(x軸)、横(y軸)、上下
(z軸)の各スライドレールは6μm単位で移動距離を読み取るロータリエンコーダと連動しており、10μm毎に現在位置を表示できる。本装置は手術部位ま
での距離と操作性を考慮して、自動制御と手動制御に随時切り替え可能である。試作したマニピュレータを反復試行したところ、その座標の誤差は最大40μm
であった。
(2)体重150kg~302kgまでの7頭のホルスタイン種雄牛をイソフルラン吸入麻酔した後、脳定位固定装置と別途試作した保定枠で固定した。側脳室
内に造影剤を注入してX線による脳室造影を行い、第III脳室周囲を可視化することに成功した。
成果の活用面・留意点
- 本装置等を用いて牛の脳地図の作成や脳定位手術が可能となる。また、これらを活用することにより牛の脳機能解析や画像診断法の開発が可能となる。
- 牛に全身麻酔を施す際には保定枠で体を保定する必要がある。
- 牛脳定位固定装置の使用法については事前に習熟することが望ましい。本装置を使用する際には、牛の体をあらかじめ保定して全身麻酔を施す必要がある。また、X線による脳室造影には十分な出力を有するX線撮影装置とX線を遮蔽できる施設が必要である。
具体的データ
その他
- 研究課題名: 家畜の脳神経機能の解明と評価に関する基礎的研究
- 予算区分:
パイオニア特別研究
- 研究期間:
平成12年度(平9~12年度)
- 研究担当者:
齋藤敏之、根本 鉄、粕谷悦子、中村正斗、作本亮介
- 発表論文等:
1.齋藤敏之、根本鉄、カールステン・ビヤルカム、中村正斗、長瀬佳子、粕谷悦子(2000年):家畜脳定位固定装置の開発とその活用、第129回日本獣医学会学術集会講演要旨p.158。
2.齋藤敏之、根本鉄、粕谷悦子(2000年):特許出願、家畜手術用保定設備、出願番号2000-226871。
3.齋藤敏之(2001年):牛の脳機能解析に向けた脳定位固定装置の試作、つくばの研究開発情報誌57巻、27~28頁。