シバヤギの視床下部室傍核におけるノルエピネフリン放出量の変動

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要約

視床下部室傍核へのノルエピネフリン放出量は、ラット同様、反芻動物のシバヤギでも末梢への血糖利用阻害剤の投与や拘束ストレスに反応して顕著に増加する。

  • 担当:畜産試験場 生理部 適応生理研究室
  • 連絡先:0298-38-8649
  • 部会名:畜産
  • 専門:生理
  • 対象:山羊
  • 分類:研究

背景・ねらい

反芻動物の中枢機能の解明は、飼養管理技術の向上に資する新たな知見をもたらすものと期待されるが、この分野の研究は単胃動物に比べてはるかに遅れてい る。たとえば、視床下部内側部に位置する室傍核(PVN)は摂食行動、代謝機能やストレス反応に関与し、その活動の調節には神経伝達物質の一つノルエピネ フリン(NE)が重要な役割を担っていることが、ラットを用いた研究で明らかになっている。しかし、反芻動物では室傍核におけるノルエピネフリンの動態は ほとんどわかっていない。 そこで、実験動物としてシバヤギを用い、視床下部室傍核の役割など、反芻動物における中枢機能を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • シバヤギ脳アトラスと脳室造影像を参照しながら、シバヤギの室傍核にガイドカニューレを外科手術的に留置した。回復後、覚醒 下でさまざまな条件を負荷したときのNEの放出量をマイクロダイアリシス法(微小透析法)により解析した。実験終了後に脳を還流固定し、室傍核に正確に挿 入されているか検証した。その組織の一例を 図1に示す。
  • 頚静脈カテーテルからグルコースの利用阻害剤である2-デオキシグルコース(2-DG)を1.2g/4mlを投与したところ、室傍核のNE放出量は顕著に増加した。 (図2)この結果は反芻動物においても体内のグルコース利用動態をモニターする機構が存在し、その情報がNEにより室傍核に伝達されていることを示唆する。
  • 動物に1日2回抱きかかえるようにして30分間拘束ストレスを与えたところ、室傍核のNE放出量はストレス負荷に応答して大きく上昇した。 (図3、5頭の個別成績)。この結果は、拘束ストレスの情報もまた、NEにより室傍核に伝達されていることを示唆する。 以上から、反芻動物においても、視床下部室傍核は代謝機能やストレス反応の調節に与っていことが示唆された。

成果の活用面・留意点

マイクロダイアリシス法は高度な外科的手術と実験の際にかなりの熟練が必要であり、脳内の特定の神経核から神経伝達物質を回収する方法としては、優れた手 法として海外で頻繁に利用されている。一度確立すれば日常的なサンプリング法として実用化は用意である。また当研究室ではNEしか測定しなかったが、他の モノアミン、アミノ酸の測定も可能である。ただMD法の原理上、ペプチド以上の比較的高分子のものは回収率が異常に低く、利用には適しないのが欠点であ る。

具体的データ

図1 マクロダイアリシス(MD)プローブの挿入位置

 

図3 室傍核におけるNE放出量に及ぼす拘束ストレスの影

 

図2 室傍核におけるNE放出量(ベースラインを100としたときの相対値)に及ぼす2-DGの影響

 

その他

  • 研究課題名: 反芻家畜の摂食行動とストレス反応に関する室傍核の機能解明
  • 予算区分: 経常
  • 研究期間: 平成12年度(平成9~12年度)
  • 研究担当者: 松本和典・大蔵聡・岡村裕昭・山岸則昭
  • 発表論文等: 松本和典・岡村裕昭・山岸則昭:第94回日本畜産学会講要p106