肥育牛のビタミンA欠乏による筋肉水腫の発症機構

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要約

黒毛和種去勢牛の血中ビタミンA濃度が20IU/dl以下の場合は、飼料摂取量が低下して低栄養状態になる。低栄養状態のなかでもとくにエネルギ-に比して蛋白質の摂取が不足すると筋肉水腫が発症する。

  • 担当:畜産試験場 栄養部 栄養素配分調節研究室
  • 連絡先:0298-38-8658
  • 部会名:畜産
  • 専門:動物栄養
  • 対象:肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

牛肉の脂肪交雑を高める目的で、肥育牛へのビタミンAの制限給与が行われている。しかし、制限が過度になった場合には筋肉水腫が発生し、枝肉の廃棄など の経済的被害を招いている。消費者に安全で美味しい牛肉を供給するためにも筋肉水腫の発症機構を解明し、発症を防止する必要がある。家畜衛生試験場および 大分畜産試験場と協力して行ったビタミンA制限飼料を給与した肥育牛について、栄養学的検討、血液生化学的検査および病理検査結果から筋肉水腫の発生を解 明する。

成果の内容・特徴

  • 血中のビタミンAが低下した肥育牛は採食量が減少して低栄養状態になる。低栄養状態のうちとくにエネルギ-に比して蛋白質の摂取が不足した人でみられるク ワシオルコル(貯蔵エネルギ-である脂肪は減らず蓄積されているが、蛋白質が合成できないので低蛋白血症となり浮腫や腹水を伴う)があるが、筋肉水腫はこ れに類似した状態であると考えられる。
  • 黒毛和種去勢牛4頭(No.1~4)を、ビタミンA無添加飼料(大麦、トウモロコシ、フスマおよび大豆粕 現物中 TDN70、CP10.6)と稲ワラを給与して肥育した。血中ビタミンA濃度が20IU/dl以下になると、濃厚飼料の摂取量が極端に低下するが、ビタミ ンAを経口投与する(矢印↓)と血中のビタミンA値が上昇し摂取量が回復した (図1)。 屠畜時にNo.1は筋肉水腫、No.2は四肢先端彎曲によるナックル症状、No.3は元気喪失、No.4は膀胱破裂がみられた。 屠畜前5週間の平均濃厚飼料摂取量はそれぞれ 2.89, 3.45, 4.47と 5.0kgであった。屠畜前7週間の蛋白質摂取量を調べると、No.4以外は要求量を充たしておらず、とくにNo.1で不足量が大きかった (表1)。
  • 大分県畜産試験場で黒毛和種去勢牛18頭を10ヶ月で導入し、27ヶ月まで間接検定用飼料(TDN 73、CP12)と稲ワラで肥育した。A-区は全期間ビタミンA無投与。A±区は14ヶ月までビタミンA投与、その後は投与せず。A+区はビタミンAパ ルミテ-ト1,000,000 IUを2ヶ月間隔で筋肉注射で投与した。A-区(4/6)とA±区(3/6)で筋肉水腫が発生した。筋肉水腫発症区では濃厚飼料摂取量が減少し、筋肉水腫 牛の血清浸透圧、アルブミン、総蛋白質、A/G、ナトリウムおよび鉄値は正常牛よりも有意に低下していた (表2)。

成果の活用面・留意点

  • 濃厚飼料摂取量が4kg以下となり、残飼の構成が蛋白質含量の高いフスマや大豆粕が多い場合、筋肉水腫が発症する危険性が高い。
  • 飼料摂取量の低下した牛には、ビタミンAを給与して食欲を回復させて筋肉水腫の発生を防止する。

具体的データ

図1 血中ビタミンA濃度と濃厚飼料摂取量の関係

 

表1 水腫牛(No.1)の蛋白質とTDNの充足率

 

表2 筋肉水腫牛の血清浸透圧とその関連物質濃度

 

その他

  • 研究課題名:牛肉の肉色に及ぼすビタミンAの作用とその機構
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成12年度(平成9年-11年)
  • 研究担当者:甫立京子・阿部啓之・河北由美・宮重俊一
  • 発表論文等:
    1.ビタミンA欠乏を伴う筋肉水腫牛の血中アルブミンと甲状腺ホルモンの減少、獣医畜産新報 50、917-920、1997.
    2.ビタミンA制限給与による肥育牛の筋肉水腫の発生と血清浸透圧の関係、第126回日本獣医学会講演要旨 、77、1998.
    3.肥育牛におけるビタミンA制御による肉質改善、肉用牛研究会報、67、22-28、1999.
    4.ビタミンA制限飼料給与牛による筋肉水腫(“ズル肉”)の再現と病理・生化学的所見、家畜衛試研究報告、第105号、15-21、1999.
    5.ビタミンA制限給与肥育牛における筋肉水腫の発症機構、第131回日本獣医学会講演要旨、2001.