結晶化反応を用いた豚舎汚水中のリンの除去技術
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要約
薬剤を用いることなく曝気するだけで豚舎汚水のpHを上昇させて、汚水中のリン酸をリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)やヒドロキシアパタイト(HAP)などへ結晶化し沈澱除去する技術、および当該技術を実施するためのリアクターを開発した。
- キーワード:環境保全、豚、汚水、リン除去、曝気、結晶化、リアクター
- 担当:畜産草地研・畜産環境部・資源化研究室
- 連絡先:0298-38-8676
- 区分:畜産草地
- 分類:技術・普及
背景・ねらい
畜舎汚水中のリンの除去技術として従来、汚水中の有機物・窒素の除去と同時にリン蓄積菌の機能を利用し汚水中のリンを菌体に固定し除去する技術 (微生物濃縮法)が開発されつつあるが、この技術はリン蓄積菌の特性から100~300mg/L (約3.3~10mmol/L)といった高濃度のリンを含む豚舎汚水は対象としていない。一方、下水道分野では、リン酸を高濃度で含有する汚水等にMgや Caを添加するとともに苛性ソーダを添加してpHを上昇させることにより、MAP反応やHAP反応などの結晶化反応を人為的に誘導して、溶存するリン酸を MAPやHAPなどの結晶にして不溶化・回収する技術が研究開発され、一部は既に実用化されている。
そこで、豚舎汚水中の100mg/Lを超える高濃度のリンを前述の微生物濃縮法などへ適用可能な濃度(約30~50mg/L、約1.0~1.6mmol /L)まで低減化する手段として、これらの結晶化反応を利用し、しかも薬剤の添加を必要としないリン除去技術を開発した。
成果の内容・特徴
- スクリーン等により大きな固形物を除去した豚舎汚水は高濃度の水溶性のリン酸、アンモニウム、Mg、Caを含有しているだけではなく、これら成分 がMAP 反応等の結晶化反応に比較的有利な存在比となっており、MgやCaなどの薬剤を添加しなくても汚水のpHを上昇させるだけで結晶化反応が誘導され、水溶性 リン酸の大部分を結晶化させることができる。
- 苛性ソーダなどの薬剤を使わずに、豚舎汚水1m3当り15m3/時の曝気量で3時間連続曝気することにより汚水のpHを上昇させることができ、汚水中の水溶性リン酸等の結晶化を誘導することができる(図1)。
- 結晶化物は沈澱により容易に分離除去・回収することができる(表1)。
- 曝気によるpH上昇と生成した結晶の沈澱を同時に行うリアクター(図2)を用いることにより、リン酸の結晶化および沈澱除去を行うことができ、豚舎汚水中の全リン濃度を大幅に低減化することができる(図3)。この際、曝気筒内のpHは8~8.5となることが望ましい。
成果の活用面・留意点
- 当技術にてMgや苛性ソーダなどの薬剤を用いることなく豚舎汚水中のリンを結晶化し除去することができる。
- 豚舎汚水の成分特性から当技術は汚水処理プロセスの最初の段階で実施することが望ましいが、図2を厳密に模倣した設備を新設する必要はなく、豚舎汚水処理プロセスの既存の最初沈澱槽を若干改造するだけでも実施することができる。
- 生成した結晶化物は他の有機固形物と一緒に沈澱・回収されるが、MAPなどの結晶は肥料として利用できるため、回収後に脱水および堆肥化を経て再 資源化され農地にて使用できると考えられる。ただし、脱水の際に凝集剤を用いた場合その堆肥化物は普通肥料として扱われるため、注意を要する。
- 結晶化物の沈降は約3m/時と比較的迅速であるが、有機固形物の沈降はゆっくりであるため、リアクターでは十分な沈降時間をとる必要がある。
具体的データ




その他
- 研究課題名:畜舎汚水からの結晶化反応によるリン除去技術の開発
- 予算区分:交付金
- 研究期間:1999~2001年度
- 研究担当者:鈴木一好、田中康男、長田隆、和木美代子
- 発表論文等:1) Suzuki et al., Anim. Sci. J., 72 (1), p72-79 (2001)
2) Suzuki, Proceeding of IWA 2nd World-Water-Congress, Berlin, P2049, p1-5 (2001)
3) 鈴木 農水省畜試「平成12年度家畜ふん尿処理・利用研究会」資料 p63ミ75(2000)