家畜尿汚水の高次処理に適応できる植物浄化システム

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要約

イタリアンライグラス等の牧草による浄化システムは家畜尿汚水の高次処理に適応でき、牧草種をいくつか組み合わせることで年間窒素平均302mg/d/m2、りん平均167mg/d/m2の汚水浄化が期待できることが判った。また、空気供給装置で根部に通気する事で生長量が増加し浄化効率が増すことが判った。

  • キーワード:畜産環境、汚水浄化、窒素、りん、植物浄化
  • 担当:畜産草地研・畜産環境部・資源化研究室
  • 連絡先:0298-38-8676
  • 区分:畜産草地
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

畜産経営の専業化・大規模化に伴いふん尿の局在化が起こり、周辺環境、特に周辺水域の汚染を引き起こす原因となる事例が少なくない。これまで畜産 農家では、過剰となる尿汚水処理には活性汚泥法等の汚水浄化処理が適用されてきたが、近年の水質規制強化に伴いさらなる高次の浄化が求められている。我々 は畜舎汚水二次処理水から栄養塩類を回収、浄化しうる牧草の選択を行い、これを用いた植物浄化システムの考案とその処理性能の検討を行った。

成果の内容・特徴

  • 30-50mg/Lの窒素および30mg/L程度のりんを含有した当研究所活性汚泥処理の処理水を用い、水耕栽培条件の試験槽(図1)で検討した。選抜試験の結果、家畜尿汚水高次処理には、ソルゴー、イタリアンライグラス、ハイブリッドライグラス、セスバニア、青刈りヒエ、およびハトムギが浄化に有望である。
  • 作業の省力化を勘案した場合、イタリアンライグラスを通年栽培し、補助的に他の植物体で補完する栽培体系が畜舎汚水には適している(図3)。
  • イタリアンライグラスによる浄化処理(300日間)は、投入汚水中の窒素、りん、それぞれ710g、1072g に対して227g(32%、平均302mg/d/m2)、126g(12%、平均167mg/d/m2)が汚水中から除去され、そのうち22g(3%)、8g(0.8%)が植物体の成長部分として除かれ、処理終了時の植物体根部の付着物及び沈殿物として155g(22%)、130g(12%)が処理槽に残存する (図2)。
  • イタリアン定植槽の窒素処理効果は植物体が繁茂する2 - 6月には高く(平均490mg/m2/d)、定植直後(9、10月:平均193mg/m2/ d)および植物体の枯死が始まる6、7月(平均236mg/m2/d)に低かった。
  • イタリアン定植槽のりんの処理効果は、3 - 6月には低く(平均81mg/m2/d)、定植直後(9、10月:平均225mg/m2/d)および植物体の枯死が始まる6、7月(平均380mg/m2/d)には高い。
  • 家畜尿汚水は二次処理水でも有機物を含んでいるため、特に夏季には植物体の根部に酸素が不足がちとなる。処理槽底部に中空糸膜モジュールを設置し て根部への通気を行った試験区では、植物体による除去量が窒素・りんそれぞれ浄化効率が9%、2%改善していた。これは植物体の成長促進によるものと考え られ、乾燥重量が茎葉部は23%、根部は44%増加する。
  • 畜尿汚水の二次処理にはイタリアンライグラス主体で、春季にハイブリッドライグラス、夏季にソルゴー等を組み合わせる浄化システムで、窒素平均302mg/d/m2、りん平均167mg/d/m2以上の汚水浄化が期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 処理槽容積当たり除去量は活性汚泥法に比べて低く、あくまで水質規制強化に伴いさらなる高次の浄化が求められた場合の補助的な処理である。
  • 有機物を含んだ畜舎汚水で植物体根部に不足がちな空気の供給装置を開発した。これにより植物体による除去量が窒素・りんともに増加する。

具体的データ

図1 植物浄化システム

 

図2 イタリアンライグラスの処理成績(300日間)

 

図3 処理試験期間中のイタリアンライグラス

 

その他

  • 研究課題名:高濃度栄養塩類排水に適した植物の検索と浄化特性の解明
  • 予算区分:公害防止(環境省)
  • 研究期間:1996~2000年度
  • 研究担当者:長田隆,田中康男,和木美代子
  • 発表論文等:1)排水浄化機能を備えた植物栽培装置 (確定年月日 平成11年1月14日) 特許第2873957号
                      2) 長田隆ら 日本畜産学会第97回大会講演要旨集 pp 90 (2000)