血管内皮成長因子は牛未成熟卵子の体外成熟率を向上させる

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

小卵胞から回収した牛の卵丘卵子複合体を、1~10ng/mlの血管内皮成長因子を添加した体外成熟培地中で培養することにより、成熟率、体外受精による正常受精率および体外培養による発生率を向上させることができる。

  • キーワード:牛、繁殖、卵子、体外成熟、体外受精、体外培養、血管内皮成長因子
  • 担当:畜産草地研・家畜育種繁殖部・繁殖技術研究室
  • 連絡先:0287-37-7810
  • 区分:畜産草地
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

血管内皮成長因子(VEGF)は、血管内皮細胞の増殖を促し、血管壁の透過性を増大させることが知られており、卵胞の発育、黄体や胎盤の形成な ど、組織の新生において重要な役割を果たしている。卵胞が大きくなるにつれて卵胞液中のVEGF濃度が増加し、顆粒膜細胞に存在するVEGFの受容体も増 加することから、卵子の成熟に対しても何らかの作用を及ぼしている可能性が高い。一方、体外受精では、卵丘卵子複合体を卵胞から取り出して培養するため、 卵胞中で成熟する場合と比べてVEGFの不足が懸念される。そこで、体外受精における正常成熟率の向上を目的として、卵胞内と同程度のVEGFを培養液に 添加し、その効果を検討した。

成果の内容・特徴

  • 培養液(成熟:10%牛胎子血清加修正合成卵管液、受精:修正BO液、培養:1%牛胎子血清加修正合成卵管液)に0、0.1、1、10ng/mlのヒト組換えVEGF165を添加して牛未成熟卵子の体外成熟(22時間)・受精(6時間)・培養(48時間)を行ったところ、1ng/mlおよび10ng/ml添加区で体外発生率が向上した (表1)。
  • 培養液に5ng/mlのVEGFを添加して牛未成熟卵子の体外成熟を行ったところ、成熟率が向上した (表2)。
  • 培養液に5ng/mlのVEGFを添加して牛未成熟卵子の体外成熟と体外受精を行ったところ、成熟率、精子進入率および正常受精率が向上した (表3)。
  • 培養液に5ng/mlのVEGFを添加して牛未成熟卵子の体外成熟を行い、その後VEGF無添加の条件で体外受精および7日間の培養を行ったところ、胚盤胞への発生率が向上した (表4)。

成果の活用面・留意点

  • 体外受精用牛卵胞卵子の成熟培養に利用できる。牛だけでなく、他の動物卵子の成熟培養にも利用できる可能性がある。
  • アミノ酸配列の異なる異性体が多数存在するため、動物種や異性体の種類毎に至適濃度が異なる可能性がある。また、培養条件によっては充分な効果が得られない場合もある。

具体的データ

表1.体外成熟・受精・培養牛卵子の発育に及ぼす血管内皮成長因子の効果

 

表2.牛卵子の体外成熟における血管内皮成長因子の効果

 

表3.牛卵子の体外受精における血管内皮成長因子の効果

 

表4.成熟培地に添加した血管内皮成長因子が体外受精牛胚の発生能に及ぼす効果

 

その他

  • 研究課題名:F1雌牛への過齢胚追い移植による双子生産の試み
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1998~2000年度
  • 研究担当者:平子誠、木村康二、羅海玲
  • 発表論文等:1) 羅ら (2000) J. Mammalian Ova Res. 17(2): S51.
                      2) 羅ら (2001) Theriogenology 55(1): 338.
                      3) 平子ら (2001) 日本国 (特願2001-082482)