ウシインターフェロンタウの大腸菌による生産とその生理活性
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要約
ウシの妊娠認識物質であるインターフェロンタウ(IFN-τ)について、その遺伝子の一部を大腸菌の利用頻度の高いコドンに改変することにより、
遺伝子組換え大腸菌による大量発現が可能となった。精製した組換えタンパク質をウシの子宮内に連続投与したところ、有意に発情の回帰が遅延し、IFN-τ
としての生理活性を有することが示された。
- キーワード:ウシ、繁殖、妊娠認識、IFN-τ、大腸菌、遺伝子組換え、コドン
- 担当:畜産草地研・家畜育種繁殖部・繁殖技術研究室
- 連絡先:0287-37-7810
- 区分:畜産草地
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
日本の酪農および肉牛生産の現場において、胚移植技術が次第に普及しつつある。しかし、移植による受胎率は50%前後と、人工授精と比べて低い値
にとどまっている。その原因の一つとして移植後早期の胚死滅が考えられており、これを改善することは胚移植技術の定着に大きく寄与すると考えられる。一
方、ウシ胚は妊娠初期にシグナル物質を分泌し、その存在を着床以前に母体に知らせる。この物質はIFN-τと呼ばれており、PGF2αの分泌を抑制し、発
情の回帰を防ぐ。IFN-τを利用すれば、移植後早期の受胎率の低下を予防できる可能性がある。そこで、IFN-τの有効利用法を開発するため、大腸菌の
遺伝子組換えによる大量生産の可能性について検討した。
成果の内容・特徴
- ウシIFN-τ遺伝子クローンbTP-509AをpET21aベクターに挿入し、大腸菌株BL21(DE3)pLysSに導入してその発現を誘起したところ、極少量のウシIFN-τタンパク質が生産された。
- 大腸菌内でのmRNAの高次構造の形成を防ぐため、ウシIFN-τ遺伝子のN末端48塩基の配列をアミノ酸組成を変えることなくAT-richに改変したが、発現の増加は見られなかった(図1)。
- この遺伝子のN末端48(コドン48)または87塩基(コドン87)の配列をアミノ酸組成を変えることなく大腸菌の利用頻度の高いコドンになるように改変したところ、タンパク質の発現量が増加した(図1)。
- 大腸菌で生産されたウシIFN-τは封入体と呼ばれる不溶性顆粒として回収されたが、変性剤および還元剤の使用により可溶化され、その後の復元処理により、水溶性タンパク質として回収できた。
- 大腸菌により生産されたウシIFN-τをウシ子宮内に投与した結果、有意に発情を遅延することが確認され、作成したウシIFN-τは妊娠認識物質としての生理活性を有することが明らかとなった(表1)。
- 作成したウシIFN-τをウシの筋肉内に投与し、投与前後の体温(膣温)を測定したところ、投与直後から用量依存性に体温の上昇が見られ、IFNとしての生理作用を有することが示唆された。
成果の活用面・留意点
- 今回作成されたウシIFN-τを実際に受精卵移植の現場で利用するようにするためには簡便な投与技術の開発が必須である。
- この物質の産業的利用には特許に注意を払う必要がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:胚着床物質の有効利用技術の開発
- 予算区分:繁殖技術
- 研究期間:1995~2000年度
- 研究担当者:木村康二、鈴木修、青木真理、平子誠
- 発表論文等:1) 木村ら (1999) 第92回日本繁殖生物学会講演要旨: P120.
2) 木村ら (1998) 第94回日本畜産学会大会講演要旨: P136.
3) 木村ら (1998) 関東畜産学会報 48: P32-33.